"嫌なら出ていけと言った夫へ" 第12話
【12】「俺の居所は、どこにあるんだよ」
「俺の居所は……どこにあるんだよ……」
修の喉から、獣のような嗚咽が漏れた。
かつて企業の部として何百もの部を従え、庭では絶対の君主として君臨していた男が、に膝をつき、子どものように泣き崩れていた。
「会社にけば、もう俺の机はない。若い奴らに『お疲れ様でした』と形だけの束を渡されて、放りされた。毎朝起きても、く所がないんだ……!」
修は畳まれたカーペットを握りしめ、顔をぐしゃぐしゃにして叫んだ。
「子どもたちはとっくに独して、俺の言うことなんて聞きやしない。残ったのは……このだけだったんだよ! 俺が、をにしてに入れた、俺だけのだと……それだけが、俺がきてきた唯の証拠だったんだ!」
直が、息を呑んでち尽くしている。
奈央が元を押さえ、が線を逸らした。
定を迎えた男の、剥きしの孤独。
肩を奪われ、社会から切りされた、元に残った「」という最の記号に縋り付くしかなかった老のれな姿が、そこにあった。
「ここが俺のじゃなかったら……俺は体、何のために働いてきたんだ……? 俺は誰なんだよ……!」
修の叫びは、もはや声ではなかった。
自らの価値を失ったの、痛な叫びだった。
私は、に崩れ落ちる夫を見つめていた。
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胸の奥に、たいが吹き抜けていくのをじた。
だとった。
だが同に、その孤独の代償として、私や子どもたちの尊厳を踏みにじり続けていい理由にはならないとも、徹に理解していた。
「修さん」
私がをこうとした、その瞬だった。
ピロリロリン、と静まり返った部に、私のスマートフォンの着信音が鳴り響いた。
画面には『産 野』の文字。
私は通話ボタンを押し、スピーカーフォンにした。
部全体に、野さんの興奮した声が響き渡る。
『相沢様! 野です! 変素らしいおらせがございます!』
「……何かしら、野さん」
『本ご案内予定だった法のお客様から、先ほど正式に「買付証」がFAXで届きました! 満額です! こちらの提示した売りし価格、千百万円、値引きなしの現括決済です!』
リビングの空気が、瞬で凍りついた。
千百万円。
値引きなしの、現括。
『社宅として即座に押さえたいとのことで、付百万円を持参するとおっしゃっています! の午、弊社オフィスにて正式な売買契約を結びたいと……奥様、いかがなさいますか!? これ以の好条件は、まずません!』
野さんの弾んだ声が、残酷な現実として突きつけられた。
の朝。
付百万円。
契約に実印を押せば、このは完全に相沢のものではなくなる。
柱の背比べの傷も、両親のテーブルも、修ののローンも、すべてが法に消滅する。
「……野さん」
私は静かに答えた。
「分かりました。の午、伺います」
『ありがとうございます! 契約類を式ご用してお待ちしております!』
通話が切れた。
リビングには、のような静寂が戻っていた。
にをついたままの修が、ゆっくりと顔をげた。
その瞳は、完全にを失っていた。
「……、売るのか」
修の震える声が、落ちた。
「全部、終わりにするのか……理恵」
も、直も、奈央も、誰もをくことができなかった。
千百万円という酷な数字が、族のをすべて押し流そうとしていた。
リミットは、の午。
の歳に、本当の審判がされようとしていた。