"嫌なら出ていけと言った夫へ" 第11話
【11】「なぜ32、度も名義を言わなかったの」
「なぜ、……度も名義のことを言わなかったの?」
直の問いかけは、静まり返ったリビングの芯を真っ直ぐに射抜いた。
も、奈央も、息を止めて私を見つめている。
ソファーので息を荒らげていた修のきも、ぴたりと止まった。
「もし、このが最初から母さんのものだったなら」
直は絞りすように言葉を続けた。
「父さんが『俺のだ』って威張り散らした、柱に傷をつけるなって鳴った、を母さんの部にしたいって言った……どうして度も、『このは私の名義よ』って言わなかったんだ?」
息子の瞳に、い困惑と痛みが滲んでいた。
「母さんが言そう言っていれば、父さんだってここまで勘違いしなかったはずだ。定退職して、最のプライドがここしかないってい詰めるに、もっとく気づけたはずだろ」
「直……」
「母さんはずっと、隠してたのか? いつか父さんを叩き潰すための、切り札として?」
直の言葉は、鋭い刃となって私の胸を刺した。
だが、それは息子として当然の疑問だった。
から見れば、私は沈黙を守り、夫が最もった瞬に致命な撃をらわせた酷な妻に見えるのかもしれない。
私は、元に置かれた古い革張りのファイルに線を落とした。
広告
の、契約の控え。
ゆっくりと顔をげ、修を見た。
修の目は泳ぎ、私の答えを恐れるように見つめ返していた。
「……隠していたわけじゃないわ」
私の声は、く、静かだった。
「言わなかったのはね――それが、夫婦だとっていたからよ」
「……え?」
直が眉をひそめた。
「、このを建てる、私の両親が千百万円のをしてくれた。それは事実よ。でもね、そのの、毎毎、い宅ローンを背負ってでをげて働いてくれたのは、修さんだった」
修の肩が、微かに揺れた。
「理尽な司にをげ、終で帰ってきて、それでも翌朝にはネクタイを締めてていく背を、私は毎朝見送っていたわ。あのがで戦ってくれているから、子どもたちをご飯に困らせずに育てられた。それは、嘘偽りのない私の謝だった」
私はく息を吸い込み、言葉をねた。
「だからこそ、言えなかったのよ。『登記名義は私よ』なんて言葉をにしたら、あのがで血を吐くいで稼いできたを、切れ枚で否定することになるとったから」
リビングが、を打ったように静まり返った。
「夫のプライドを傷つけたくなかった。あのが『俺が族を養っているんだ』と胸を張れることが、で戦う男の誇りだとっていたから。
広告
だから私は、何も言わなかった。登記が誰のものかなんて、どうでもよかったのよ。ここが、族みんなのであるなら」
私は修の目を真っ直ぐに見つめた。
「私はね、修さん。あなたを尊していたからこそ、言わなかったのよ」
その瞬だった。
「……尊だと?」
く、掠れた声が響いた。
修だった。
彼のが刻みに震え、顔が歪んでいく。
りではない。
内側から何かが崩壊していくような、凄まじい絶望の表だった。
「……お、本気でそうっていたのか?」
修の目から、ポロリと筋の涙がこぼれ落ちた。
「俺は……俺はずっと、っていたんだぞ」
絞りすような声が、リビングの空気を引き裂いた。
「おが何も言わないのは……おもの底から、俺に謝しているからだとっていたんだ。俺がでをすすって稼いできたからこそ、このがあるんだと、おも認めているから黙っているんだと……!」
修は両で顔を覆い、肩を激しく震わせた。
「俺は、おの沈黙を……『従』と『承認』だとい込んでいたんだよ……!」
が、止まった。
。
私は「尊」のために沈黙し、
修はそれを「承認」と受け取って傲さを膨らませていた。
が見ていた世界は、最初から完全にい違っていたのだ。
悪があったわけではない。
ただ、互いの沈黙を、自分に都のいい解釈で埋め尽くしてきたの歳。
その巨なすれ違いの残骸が、今、族の目のに転がっていた。