"嫌なら出ていけと言った夫へ" 第9話
【09】 破綻した別居、玄関を埋めるベビーカー
翌朝の相沢の玄関は、文字通り「荷物の」で埋め尽くされていた。
段ボール箱がつ。
途半端にガムテープで留められた袋がつ。
そして、のついたタイヤのベビーカーが台、がりかまちを完全に塞いでいた。
「……何だ、これは」
パジャマ姿の修が、寝からてきてち尽くしていた。
目のには濃いくまが刻まれ、昨夜の憔悴がそのまま顔に張り付いている。
その横で、歳の孫を抱いた奈央が、玄関の隅でさく震えていた。
昨夜、夫から方に鍵を替えられ、文字通り着の着のままで放りされた娘だった。
子どものと涙で、奈央のブラウスの胸元はぐっしょりと濡れている。
「お父さん、ごめんなさい……夫から、本当に荷物が届いちゃって……」
奈央が消え入りそうな声でをげる。
孫の翔太が、見慣れない祖父の険しい顔を見て、がついたように泣き叫び始めた。
狭い玄関に、甲い泣き声がワンワンと反響する。
修の眉が、限界まで引き絞られた。
昨夜、のマンションで「対等に話しう」と先だけで言い、千万円で名義を買い取ろうとした男だ。
だが、いざ「泣き叫ぶ赤ん坊と、居所を失った娘」という臭い現実が目のに転がり込んできた瞬――
かけて染み付いた、男の本能が剥きしになった。
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「……うるさい!」
修のが、玄関の壁をドスンと叩いた。
「朝っぱらから何なんだ、この騒ぎは! 所に響き渡るだろうが!」
「ごめんなさい、翔太、泣かないで……!」
「荷物をどかせ! 靴の踏みもないじゃないか! 体、なぜ弁護士も通さずに勝に転がり込んでくるんだ! 俺は定して、ようやく静かに暮らせるとった矢先だぞ!」
修のから次々とびすのは、娘への配でも、孫へのでもなかった。
自分の「静穏な縄張り」を侵されたことに対する、純粋な苛ちと拒絶だった。
「お父さん、でも、私、もうくところがなくて……」
「旦のところへ戻れ! 夫婦喧嘩くらいで実に逃げてくるから向こうも固になるんだ! 女親が甘やかすからこうなる!」
奈央の唇から、血の気が引いていく。
絶望が、再び娘の瞳を覆い尽くそうとした、そのだった。
カチャリ、と玄関の郵便受けの隙から、の鍵が差し込まれた。
い鉄の扉がき、朝のが差し込む。
「……お母さん」
奈央の声が、さく震えた。
私がっていた。
には、コンビニで買ってきたパックの牛乳と、さなパンの袋。
私は靴を脱ぎ、ベビーカーの横をすり抜けて玄関へがった。
泣き叫ぶ翔太を奈央の腕から受け取り、背をゆっくりとトントンと叩く。
「理恵……」
修が気圧されたように歩ずさった。
その顔には、昨夜の傲さは欠片もなく、ただ「い通りにならない庭」
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への苛ちだけが浮かんでいる。
私は翔太をあやしながら、修の目を真っ直ぐに見据えた。
「修さん」
私の声は、く、静かだった。
「昨夜、あなたは『対等にやり直す』と言ったわね」
「それは……!」
「これが、あなたの言う『対等』なの? 娘が本当にを追いされ、くを阻まれて震えているに、真っ先にる言葉が『俺の静かなを邪魔するな』なのね」
修の喉仏が、苦しげにした。
「俺は……俺の活のリズムがあると言っているんだ! いきなり赤ん坊を連れて来られて、ハイそうですかと受け入れられるわけがないだろう!」
「ええ、そうね。受け入れなくていいわ」
私はたく言い放ち、リビングの引き戸をけた。
「だから、今からここで決めましょう。このを本当に売り払うか、それとも全員でしいルールを作るか。――直も、も、もう呼んであるわ」
玄関のから、音がつ、づいてきていた。