"嫌なら出ていけと言った夫へ" 第7話
【07】「奈央、これはあなたの問題じゃない」
「奈央。顔をげなさい」
私のい声に、奈央はびくりと肩をねさせ、涙をためた目を見いた。
「謝る必なんて、どこにもないわ」
「でも、私が――」
「聞きなさい」
私は娘の言葉を遮り、両肩をしっかりと掴んだ。
「これは、あなたが実に泊まろうとしたから起きたことじゃないの。あなたがいなくても、来週には別の理由で同じことが起きていたわ」
「……え?」
「私がリビングの模様替えをしたかもしれない。庭の植鉢を増やしたかもしれない。あるいは、スーパーの特売肉をしたかもしれない。あのはね、自分のい通りにならないことがつでもあれば、いつでも『ていけ』と言う準備ができていたのよ」
奈央の唇が、さく震えた。
「修さんはね、会社という肩を失って、自分がただの老いた男になった現実から逃げているの。庭ので誰かを踏みつけ、『ここは俺のだ』と鳴ることでしか、自分の価値を確かめられなくなっているのよ」
「でも……お父さん、すごくさく見えたよ。ファミレスで話した、肩を落として、寂しそうに……」
「それは反省じゃないわ。同を買って、自分に都のいい駒をかそうとしているだけよ」
私は徹に言い切った。
、あの男の隣で呼吸を共にしてきた私だからこそ分かる。
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修が本当に反省しているなら、子どもたちを呼びして私の悪を吹き込むはずがない。
真っ先に私のところへ来て、自分ので非を認めるはずだ。
それをせず、番傷つきやすく、最も罪悪を抱きやすい女を矢面にたせて母親を説得させようとする。
その卑怯さに、私の胸の奥で煮えたぎるようなりが湧きがっていた。
「奈央。あなたが今ここで私を説得して、私が板を取りげてに戻ったとするわね。それで、何が解決するの?」
「それは……また、みんなで暮らせるし……」
「元の獄に戻るだけよ。あのは『ほら見ろ、結局俺が正しかった』と確信し、今度こそ完全に私たちを召使いとして扱うようになるわ。あなたが夫とうまくいかなくて逃げ込みたくなっても、もう度と敷居を跨がせてもらえない。、あのの嫌を伺いながら、息を殺してきることになるのよ」
奈央は息を呑み、言葉を失った。
「私はね、あのを売っておが欲しいわけじゃない。でも、あのの『俺のだから俺が絶対だ』というルールだけは、絶対に叩き折らなきゃいけないの。それが壊れない限り、誰も対等にはなれないのよ」
リビングが、を打ったように静まり返った。
が妹の背にそっとを添え、「お母さんの言う通りだよ」と静かに呟いた。
奈央は膝ので固く握りしめた拳を見つめ、やがて、ぽろぽろとたな涙をこぼした。
今度の涙は、父親への恐怖でも、自分への罪悪でもなく、現実のさを受け止めた涙だった。
そのだった。
ピンポーン、と無質なインターホンの子音が鳴り響いた。
が怪訝そうにちがり、玄関のモニターを確認する。
次の瞬、娘の息が止まった。
「……お母さん」
の声が、張っていた。
「誰?」
「お父さん。のエントランスじゃなくて……部ののインターホンを押してる。誰かのろにくっついて、オートロックをすり抜けて入ってきたんだわ」
モニターには、いつもの仕てのいいジャケットを着た修が映っていた。
には、分い茶封筒が握られている。
ピンポーン、ピンポーンと、執拗にチャイムが連打された。