"嫌なら出ていけと言った夫へ" 第6話
【06】「おが言いさなければ、こうはならなかった」
撮を終えてのマンションに戻ったそのの夜。
玄関のドアが乱暴に叩かれた。
インターホンのモニターを見るまでもない。
泣き腫らした顔の女・奈央が、さなバッグだけを握りしめてち尽くしていた。
「お母さん……!」
ドアをけた瞬、奈央は崩れ落ちるように私の元にしがみついてきた。
膝に顔を埋め、しゃくりあげる肩が激しく波打っている。
「どうしたの、奈央。子どもは?」
「実の……お父さんのところに置いてきた……もう無理、私、がおかしくなりそう……!」
リビングからがてきて、妹の腕を引に引きげた。
たい麦茶をグラスに注ぎ、テーブルに置く。
奈央は震えるでそれを包み込みながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
今、修が奈央と直を呼びしたのだという。
所は、実のくにあるファミレスの個だった。
「お父さん、すっごく落ち着いた声で話し始めたの。『俺は族のために良かれとってやってきた』って」
奈央のから語られた修の言葉は、恐ろしいほど巧妙だった。
『直、奈央。母親がどうしてあんな暴をしているか分かるか? 更期と、定した俺へのつ当たりだ』
『あのがに売り払われたら、おたちが将来相続するはずの財産は全部消える。
広告
現化されれば、税で半分く持っていかれ、母親の元に残ったも、変な投資や詐欺に引っかかって消えるのがオチだ』
息子には「遺産の消滅」という現実な損得を突きつけ、揺さぶりをかける。
そして、精神に追い詰められていた奈央には、最も残酷な刃を突きてた。
『奈央。おが夫と喧嘩して、易に実に転がり込もうとしたのが全ての引きだ。おが甘えたことを言いさなければ、母親があんな突拍子もないにる実はなかったんだぞ』
『おが母親を煽り、このを壊したんだ。おが責任を取って、母親に板を取りげさせろ』
「私……私がお父さんをらせたから……!」
奈央はテーブルに突っ伏し、髪を振り乱して泣いた。
「お父さんが言った通りなの。私がして、夫とちゃんと話しってれば、お母さんがをていくこともなかった……! 私のせいで、みんなの帰る所がなくなっちゃう……!」
「奈央、あんた馬鹿じゃないの!?」
が激し、テーブルを拳で叩いた。
「あの男の言うことを真に受けないでよ! 昔からそうじゃない! 自分が誰かを傷つけたは、必ず周りの誰かのせいにして、罪悪を植え付けて操ろうとする! お父さんの常套段でしょ!」
「でも、現実にが売りにされてるんだよ!? 直兄ちゃんだって、『母さんはしやりすぎだ、父さんを追い詰めすぎてる』って言ってたもん!」
広告
男の直も、父親の論理に絡め取られ始めていた。
修がローンを払い続けた背を見て育った息子にとって、「母親が法律を盾にを売り払う」という構図は、父親への過剰な制裁に見えているのだ。
族が、修のによって見事に分断されていた。
黒柱としての特権を失った男が、今度は「被害者」の仮面を被り、子どもたちの罪悪と打算を利用して私を包囲しようとしている。
奈央は濡れた瞳で私を見げ、すがるように両を伸ばしてきた。
「お母さん、お願い……! 私、お父さんに座するから。度と実に泊まりたいなんて言わないし、孫の顔も見せに来ないから……だから、あの板をして……! お願いだから、お父さんに謝って戻ってあげて……!」
娘の叫びが、狭いリビングに痛々しく反響した。
私は、奈央の震えるを握り返さなかった。
ただ、静かにその目を真っ直ぐに見つめた。