"嫌なら出ていけと言った夫へ" 第3話
【03】「登記名義は、奥様おです」
「登記簿の所者名は、相沢修様ではございません」
営業マンの平坦な声が、朝のたい空気を切り裂いた。
修の喉から、ヒュッ、と乾いた音が漏れる。
「……は?」
「登記事項証を確認しております。表題部、権利部甲区。こちらの、ならびに建物の登記名義は――」
営業マンはタブレットの画面を修の目のに突きした。
「『相沢理恵』様。持分全部。単独名義となっております」
が、完全に止まった。
修の目が、液晶画面の文字を何度も往復する。
相沢理恵。
相沢理恵。
相沢理恵。
どこを探しても、自分の名はない。
持分分のの共名義ですらない。
妻の名だけが、法務局の公印とともにくっきりと刻まれていた。
「ば、馬鹿を言うな……!」
修の声がずり、震え始めた。
「あり得ん! 俺が、俺がローンを払ってきたんだぞ! ボーナスも欠かさず繰りげ返済して、についに完済したんだ! 俺ので買っただ! なぜあいつの名だけになっている!」
「ローンのお支払いと登記名義は、法には別の問題でございます」
営業マンはビジネスライクに、しかし容赦のない事実を告げた。
「奥様からいただいた購入当の売買契約類の控えも確認いたしました。の割以が奥様のご実からの贈与および奥様の固資産から支払われており、税務の理由も含め、当初より単独名義で登記されております。
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名義ご本から正当な委託を受けている以、第者である旦様のご指示で作業を止することはできません」
「だ、第者だと……!? 俺はこのの主だぞ!」
修が掴みかからんばかりにを乗りしたその、キキッと甲いブレーキ音を響かせて、台のタクシーが横付けされた。
からびしてきたのは、男の直だった。
都内のIT企業で働く歳の息子は、スーツの着も着ずに血相を変えてってきた。
そのろから、目を腫らした女の奈央も姿を現す。
昨夜の夫婦喧嘩の末、実にも入れず、くのホテルに泊まっていたらしかった。
「父さん! 何やってんだよ、朝から!」
直が修の腕を掴んで引き戻す。
その線が、扉の『売却物件』の板に突き刺さった。
「……マジかよ。母さん、本当に……」
直はスマートフォンを取りし、画面に表示された法務局のデータを凝した。
から転送されてきたものだ。
「おい、直! おからもこの業者に言え!」
修は息子の腕を掴み、すがるように叫んだ。
「おの母親ががおかしくなったんだ! 勝に俺のを売りにしやがった! 警察を呼べ! 業務妨害だ!」
だが、直のはかなかった。
直は眉にい皺を寄せ、板と父親を交互に見つめている。
「……父さん、これ、登記簿は完全に母さんのものだよ」
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「をしたのは俺だと言っているだろうが!」
「でも、登記が母さんなら、法律は母さんが売却の決定権を持ってる。産の言ってることは筋が通ってるよ」
「直、おまで何を言っている!」
修が裏返った声で鳴る。
その横で、奈央が耐えきれなくなったように崩れ落ち、アスファルトのでしゃがみ込んだ。
「私のせいだ……」
両で顔を覆い、しゃくりあげる声が響く。
「私が……昨、泊まりたいなんて言ったから……お父さんがお母さんを追いして……私のせいで、みんなのがなくなっちゃう……!」
「奈央、泣くな! みっともない!」
修は娘を鳴りつけながらも、その線は泳ぎ、膝がかすかに震えていた。
、疑うことすらなかった絶対の真実。
「俺の」「俺が養ってやった族」「俺のルールに従うべき妻」。
そのが、切れ枚で音をてて崩れっていた。
修は震える指でポケットからスマートフォンを引っ張りした。
画面を乱暴にスクロールし、私の番号を呼びす。
呼びし音が、わずか回。
プツリ、と通話が繋がった。