"無償の介護係だった嫁" 第13話
【13】「番甘えていたのは、私の方だったんだね」
リビングの苦しい沈黙を破ったのは、ケアマネジャーの岸さんの静かな声だった。
岸さんは元のファイルをめくり、ボールペンを構えた。
「皆様のお気持ちはよく分かりました。では、政とサービス事業所に提する申請類の作成に移らせていただきます」
岸さんはテーブルを見渡し、事務だが、極めてみのある問いを投げかけた。
「現、そして今の介護方針において、ご族を代表し、緊急の判断や契約の主体となる『主たる介護者』は、どなたになりますでしょうか」
主たる介護者。
その言葉が落ちた瞬、染み付いた習慣が、部の空気を支配しかけた。
健司の線が、無識に私へと向かう。
由もまた、すがるような目で私を見つめる。
誰かが私の名をにすれば、すべてが元通りになる。
類に『佐藤真奈美』とかれさえすれば、責任は再び私の肩へと滑り落ちていく。
健司がをきかけた。
「それは……うちの妻が番詳しいので――」
「健司、おやめ」
掠れた、だが凛とした声が響いた。
に座り込んでいた義母だった。
義母は由のを借りて、ゆっくりとちがった。
曲がった腰をで押さえ、痛むを引きずりながら、自分のでダイニングチェアへと歩み寄った。
そして、子を引いてく腰をろした。
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「お母さん……?」
健司が戸惑ったように眉をひそめる。
義母は膝のでシワだらけのをぎゅっとねわせ、岸さんに向き直った。
その顔には、先ほどまでのヒステリックな取り乱しは消えっていた。
「岸さん。今まで、私の面倒を見てくれていたのは、真奈美さんでした」
義母の声は震えていたが、言言を噛み締めるように紡ぎされた。
「でもね……それは、族でちゃんと話しって決めたことじゃなかったんです。真奈美さんが優しいから、何でも『私がやります』って言ってくれたから……それに甘えて、私が全部押し付けていただけなんです」
「母さん……」
由が息を呑んだ。
「私が番、甘えていたんだよ」
義母は俯き、乾いたシワだらけのの甲を見つめた。
「健司や由に迷惑をかけたくないって言いながら、真奈美さんにならどれだけ迷惑をかけてもいいとってた。あの子が自分のを削って、友達とも会わず、旅にもかずに私の背を流してくれていたのに……『嫁なんだから当たり』って、のどこかで都よく言い訳をしていた」
義母はゆっくりと顔をげ、私を見た。
その瞳には、で度も見たことのない、い悔と恥のが滲んでいた。
「真奈美さん。ごめんね……。本当に、すまなかったね」
を過ぎた義母が、息子の嫁に向かって、く、くをげた。
髪の混じった頂部が、テーブルのでさく震えていた。
「もう……あなたに甘えちゃいけない。これ以、あなたのを私のオムツで汚しちゃいけないんだよ」
義母は岸さんに向き直り、涙を拭った。
「岸さん。デイサービスでも何でも、きます。のでも何でも借ります。だから……契約の責任者は、実の息子である健司にしてください」
健司の顔から、完全に血の気が引いた。
逃げを失った男のに、現実という名の徹な鏡が突きつけられた瞬だった。