"無償の介護係だった嫁" 第4話
【04】「12、毎これに耐えてたって言うの?」
翌朝の午過ぎ。
まだ暗い自宅の寝で、枕元のスマートフォンのバイブレーションが鳴った。
画面には『佐藤由』の文字。
私は寝返りを打ち、画面をタップしてに当てた。
「……もしもし」
応答すると、聞こえてきたのは鳴り声ではなかった。
微かに震える、しゃくりあげるような泣き声だった。
「……お義姉さん……」
掠れた声だった。まるで晩叫び続けて喉を潰したかのような声だ。
「どうしたの」
「……私、もうにそう……」
由のすすり泣きが、受話器越しに漏れる。
「昨の夜……母さん、回もトイレに起きて……。うち、廊にすりがないじゃない? だから私、母さんの体を支えようとしたんだけど……くて、支えきれなくて、で廊に倒れ込んで……。母さん、腰を打ったって泣きして……」
「怪は? けるの?」
「骨折はしてないみたいだけど……痛い痛いってずっと唸ってて……。私、怖くてもできなかった……。半には『お腹が空いた、血糖でがふらふらする』って言われて、お粥作ったのに、『がい、真奈美さんの汁と違う』って突き返されて……」
由の声が、次第に恐怖混じりの絶望へと変わっていく。
「私、らなかった……。母さんって、あんなに儘だったの? あんなに夜に何度も起きるだったの? 昼会うときは、いつも穏やかで『由ちゃんありがとうね』って笑ってくれてたのに……昨の夜は、まるで別みたいに私を鳴りつけて……」
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それは、由が初めて見た実の母親の「介護が必なの々しい素顔」だった。
に度、産を持って遊びに来る娘に見せる顔と、
、排泄と事をに委ねなければきられない老の、苛ちとに満ちた素顔。
そのつの違いを、由はこの、度もろうとしなかったのだ。
「お義姉さん……」
由が震える声で、絞りすように言った。
「お義姉さんは……この、毎こんなことに耐えてたの……? 毎晩、こんないをしてたって言うの……?」
私はベッドから起きがり、カーテンをけた。
み始めたのが、何もないリビングのを照らしている。
「毎じゃないわよ」
私は静かに答えた。
「え……?」
「毎じゃない。でもね、由さん。いつそれが起きるかは、誰にもわからないの。今夜かもしれないし、の朝かもしれない。それが、も途切れずに続いていたのよ」
話の向こうで、由が息を呑み、言葉を失った。
「変ね」「お義姉さん偉いね」と、全な野から投げていた言葉の軽さを、彼女自の体が初めて理解した瞬だった。
そのだった。
ドンドンドン!! と、玄関のドアが乱暴に叩かれた。
属製のドアが鳴をげるような、暴力なノックの音。
「おい真奈美! けろ! けろよ!!」
健司の声がから響き渡った。
私は由との話を切らずに、ゆっくりと玄関へ向かった。
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ドアスコープを覗くと、髪を振り乱し、目のにどす黒い隈を作った健司がっていた。
には、茶いシミのついたきなビニール袋を握りしめている。
鍵をけてドアをわずかに引いた瞬、健司が力任せに押し入ってきた。
「お、いい加減にしろよ!」
靴も脱がずにがり框に踏み込んできた健司は、私の目のにそのビニール袋を叩きつけた。
から、ツンとしたアンモニアの臭いがちる。
義母の汚れたパジャマと着だった。
「由が完全にノイローゼで倒れかけてる! 俺も会社を休む羽目になったんだぞ!」
健司は充血した血った目で、私の肩を乱暴に掴もうとした。
「今は俺がる番らしいが、母さんの背にずれができかけてるんだよ! 膏を塗って、体を拭かなきゃいけないんだ! 息子の俺に、母親の裸を見ろって言うのか!? 息子の俺に、の世話をしろって言うのかよ!」
健司の叫びは、りを通り越して純粋な恐怖と拒絶に染まっていた。
自分の親の老いた肉体を直することへの、勝な拒絶反応。
「頼むから今すぐに乗れ! 母さんをうちへ連れ戻すぞ! おがるんだよ、今まで通りにな!!」
健司のが、私の腕をきつく締めげた。
痛みがる。
私は痛む腕を見ろし、それから壁に掛けられたカレンダーへ線を向けた。
『集講座 講まで、あと29』と、赤い丸がつけられた付。
私は掴まれた腕を、全の力を込めて振り払った。