"大関の着物を切り裂いた機内の酔客5人" 第4話
郎は静かに歩み寄り、佐藤と5のならず者たちのにった。
そして佐藤を背で完全にかばうようにして、きく両を広げて腰を落とした。
股を踏むのあの状態。
半の力を抜いた自然体、相撲における構えである。
ブラッドが吠えた。
「デブ、おみたいな脂肪の塊は見かけ倒しなんだよ。俺たちみたいな本物のファイターのじゃ、ただのでかいだけのサンドバッグだ」
ブラッドの声と同に、仲のスキンヘッドの巨漢が郎の真正面にった。
彼は力任せに、両でドンと郎の分い胸を突きばしにかかった。
しかし、突きばされたはずの郎の体は1mmたりともかなかった。
スキンヘッドの男は自らの首を押さえて顔を歪めた。
「ぐっ……」
まるで面にく根を張った齢数百のを、素で全力で殴りつけたような覚。
分い肉体は、信じられないほどの弾力と岩盤のようなさを持ちわせていた。
郎は顔つ変えなかった。
ただ無言のまま、静かに目のの男たちを見据えている。
反撃する素振りは切見せない。
しかしその底れぬ静けさと、絶対にろへは退かないというの姿勢が、ならず者たちをさらに苛たせた。
ブラッドの声が内に響き渡る。
「この野郎、ちょっとばかり体がでかいからって調子に乗りやがって」
広告
彼は仲たちに図を送った。
「おいおら、全員で囲め。このクソデブに俺たちの躾をお見いしてやる」
ブラッドの号令で、5の柄なアメリカたちが郎を半円状に取り囲んだ。
周囲の座席にいた本客たちは、恐怖のあまり息を潜めている。
誰もが、郎が袋叩きにされる惨な景を像し、両で顔を覆いたくなった。
郎は師匠の教えを守り、自ら拳を振るうことはしない。
だが無抵抗のまま5の凶暴な男たちに殴られ続ければ、いくら靭な力士であっても命に関わる。
で震える佐藤が、絞りすように懇願する。
「いや、やめて。誰か助けて……」
だが、狂乱したブラッドたちのには届かない。
ブラッドはにしていた空のウイスキーボトルを逆に握り直し、ギリっと歯をいしばった。
「おい、そのそうな着物ごと引き裂いてやれ。この豚を裸にして内のにいつくばらせて、泣かせてやるんだよ」
ボトルの底が、鈍いを反射している。
らかに郎の部を狙って振りろすつもりだった。
緊張が最潮に達し、ブラッドがウイスキーボトルをく振りげた。
まさにその瞬だった。
「そこまでよ」
凛とした女性の声が響き渡った。
ビジネスクラスのさらに方。
ファーストクラスとの仕切りである分いカーテンの奥からの声だった。
広告
「野蛮な振るいはいい加減になさい」
流暢で、それでいて無を言わせぬ威厳に満ちた英語。
体誰なのか。
こんな絶体絶命の暴力の現に割って入るなど、正気の汰ではない。
全員の線が、方のカーテンへと集した。
ファーストクラスとの仕切りであるなカーテンを押し除け、ゆっくりと姿を現したな物。
それは、仕ての良さが目でわかるアイボリーのシャネルのスーツにを包んだ、70代ほどのの老婦だった。
綺麗にまとめられた髪に、首元で品に輝く粒の真珠のネックレス。
柄でに黒檀の杖をついてはいるものの、その背筋はピンと美しく伸びている。
そして何より、彼女の透き通るような青い瞳には、燃えるような正義といかなる暴力にも屈しないい性が宿っていた。
老婦はブラッドたちならず者を鋭く見据えた。
落ち着いた、しかしややかな声で言い放つ。
「あなたたちの振るいは、同じアメリカとして見ていられません。この紳士は、あなたたちに何もしていないじゃありませんか。恥をりなさい」
ブラッドはウイスキーのボトルを振りげた体勢のまま、瞬ポカンとをけた。
自分たちのような屈で凶悪な男に向かって、こんな柄な老婆がたった1で説教をしてくるとは、にもっていなかったのだ。
しかし数秒に状況を理解すると、ブラッドの顔はたちまち醜く歪んだ。