"毎日届く「パパを来させないで」" 第11話
皿を洗いながらの顔を窺う10歳
そっと引き戸をけ、音をてずに玄関のがり框にを踏み入れた。
廊の先、キッチンのほうから滴のねる音がしている。
私は靴を脱ぎ、静かに廊をんだ。
キッチンの入りのから覗き込んだ瞬、私のはに縫い付けられたように止まった。
美咲がいた。
さな踏み台のにち、シンクに向かって背伸びをしながら、朝で使ったのであろう皿を洗っていたのだ。
袖をきっちりと肘までまくりげ、さなでスポンジを握り、真剣な顔で泡てている。
その横のダイニングテーブルでは、母が聞を広げていた。
ふいに、母が腰の痛みに顔をしかめ、「ふう……」とさくい溜め息を漏らした。
ただの、齢者特の無識の溜め息だった。
けれど、その瞬だった。
美咲の皿を洗うが、ピタリと止まった。
背が棒のように直する。
美咲は慌てて蛇を止め、濡れたをエプロンで急いで拭うと、恐る恐る振り返った。
「おばあちゃん……ごめんなさい」
消え入りそうな、怯えきった声だった。
母が怪訝そうに聞から顔をげた。
「え? 何がだい、美咲」
「美咲が……お皿、カチャカチャ音をてたから……うるさかった?
邪魔なら、すぐに部にくから……」
美咲のきな瞳には、らかな恐怖が浮かんでいた。
が嫌になることに対する、病なまでの過敏さ。
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しでも空気がくなれば、それは「自分のせいだ」とい込み、叱責されるに先回りして謝罪する癖。
母は痛な表で聞を置き、ちがって美咲のさな肩を抱き寄せた。
「美咲、違うよ。おばあちゃん、腰が痛かっただけさ。
美咲は何も悪くないよ。お伝いしてくれて、本当に助かってるよ」
そう言われても、美咲の張った表はすぐには解けなかった。
「……ほんとに?」と、相の顔を隅々まで観察するように見つめていた。
キッチンので、私は元をで押さえ、溢れそうになる嗚咽を必に押し殺した。
あの子は、のでもずっとこうだったのだ。
浩司がため息をつけば、自分が何か粗相をしたのではないかとを縮め。
私が暗い顔で洗い物をしていれば、母親をらせないように息を殺して部に引きこもり。
の嫌を損ねないためだけに、全神経を張り巡らせてきていたのだ。
歳の子どもが。
番無邪気で、親に甘えてが儘を言ってもいいはずの齢の子が。
「……真由美かい」
母が、廊につ私の気配に気づいて声をかけた。
美咲がハッとこちらを振り向いた。
私と線がぶつかった瞬、娘の顔からサーッと表が消え失せた。
たい、あの仮面のような無表に戻ってしまう。
「美咲……」
私が歩踏みすと、美咲は踏み台からり、濡れたをろに隠した。
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「母さん、美咲とし話させて」
母は何も言わず、美咲のを優しく撫でると、買い物籠を持って無言で玄関へと向かってくれた。
い引き戸が閉まる音が、静かなのに響く。
畳のに、私と美咲のだけが残された。
畳のに正座した美咲のに、私も膝をついた。
の朝のが障子を透かして、埃っぽく落ちている。
「美咲……昨は、ごめんなさい。夜にで来させて、本当に危ないことをさせたわ」
美咲は膝ので両をね、畳の目をじっと見つめている。
「パパが……やっぱり嫌だったのよね? ので、あんなにママのことを探らせて、脅すようなことを言って……だから、パパから逃げたかったのよね?」
私は娘のに寄り添うつもりで、そう問いかけた。
浩司の悪を共し、娘の方であることを示そうとしたのだ。
だが、美咲はゆっくりと顔をげた。
その瞳は、私の浅な予を、あまりにも静かに裏切った。