"金曜日の証言まであと三日" 第16話
夕方の事聴取
午を過ぎる頃まで、私は警察署の会議に留め置かれていた。
何度か別の捜査員がやってきては、コーヒーの銘柄、正さんの着ていたの、会話の細部について執拗に確認を繰り返した。私の証言に片の綻びもないことが確認されるにつれ、警察署内の空気はらかに慌ただしさを増していった。
廊を忙しなくき交う革靴の音。
鳴り声に似た指示。
そして、くの部から漏れ聞こえてくる、女の激しい泣き声。
理恵の声だった。
正さんの「虚偽の自」は、私の証言とスマートフォンの写真、そしてマンションのエレベーターの防犯カメラ映像によって完全に砕された。無実のが代わりにてられていたという事実は、警察にとってもな失態に繋がりかねない。捜査本部は即座に方針を転換し、浦夫妻に対する別々の追及を始したのだった。
午、ようやく部のドアがき、疲れ切った顔の池田警部補が入ってきた。には分い調が握られている。
「成瀬さん、い引き止めて申し訳ありませんでした」
「……正さんは、どうなりましたか」
「自供を撤回しました」
警部補はパイプ子を引き、私の向かいに腰をろした。
「最初は頑なに自分が運転していたと言い張っていましたがね。
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あなたの証言と客観証拠を突きつけると、言葉を失い、項垂れて……妻の代わりになろうとしたことを認めました。犯隠避の疑いもありますが、状を考慮し、逮捕は見送る方向で調しています」
私はく息を吐いた。胸の奥のつかえが、わずかに溶けた気がした。
「理恵は……」
「奥さんも、すべてを話しましたよ」
池田警部補は帳をき、淡々と、しかし々しい声で語り始めた。
「曜の夜、運転していたのは浦理恵本です。助席には、あなたの弟さんである成瀬悠真氏が同乗していました」
っていた事実だったが、警察官のから公に告げられると、たい刃物で皮膚を撫でられたような悪寒がった。
「理恵さんの供述によれば、弟さんの居トラブルを解決するため、夜にをして現へ向かった。同乗、内で論になり、理恵さんが方注の状態で交差点に入。折してきた自転の男子を巻き込んだ」
「……どうして、逃げたんですか」
「パニックです」
警部補は眉根を寄せた。
「理恵さんは気が転してを止めることができず、数百メートル先でようやく止した。その際、同乗していた弟さんが『自分が乗っていたら執猶予が取り消される、姉にも全部られてしまう』と取り乱し、をりようとしたそうです。
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理恵さんは弟さんを庇うあまり、彼をアパートのくでろし、自宅に戻った。そこで夫である正氏に泣きついた、ということです」
あまりにも浅はかで、あまりにも臭い、勝な連鎖だった。
誰もが「誰かを庇うため」にし、その結果として、に血を流して倒れていた見らぬを完全に置きりにしたのだ。
「被害者のは、の骨折と打撲で全治ヶの傷ですが、命に別状はありませんでした。今、識がはっきりして、親御さんと緒に警察の聴取を受けています」
「そうですか……」
「理恵さんについては、過失運転致傷および交通法違反、いわゆるひき逃げの容疑で宅起訴の続きがめられます。怪の程度、の経緯、初犯であることなどを考慮し、勾留請求は見送られる見込みですが……免、あるいは免許取消、そして額の罰と損害賠償は避けられません。厳しい刑事罰が待っています」
警部補は帳を閉じた。
「成瀬悠真氏にも、先ほど連絡を入れました。現からのちりを教唆した疑いを含め、参考として事を聴きます。執猶予への響については、検察の判断になりますが……無傷では済まないでしょうね」
部のに、い沈黙が落ちた。
全員が、代償を支払うことになった。
正さんのキャリアには拭いれない傷がつき、理恵は犯罪者として法廷につ。
悠真は再び警察の監に置かれ、失いかけた社会な信用を完全に失う。
これが、真実の姿だった。
美談などどこにもない。誰も格好良くない。
ただ、自分の犯した過ちと、自分のした選択のツケを、それぞれが自分自の財布から支払わされるだけの、残酷な現実だった。
「成瀬さん、署名と捺印をお願いします」
差しされた参考調の末尾に、私は自分の名をき、朱肉をつけた印鑑を力く押し当てた。
に刻まれた赤い丸が、夕暮れの暗い部ので、鮮やかに滲んでいた。