みかん小説
本棚

"金曜日の証言まであと三日" 第2話

めたコーヒーと分

午を過ぎてすぐ、私はをして病院へ向かった。

だが、受付で名を告げると、護師は困惑した表を浮かべた。

「浦理恵さんでしたら、先ほどご主の付き添いで退院の続きを取られ、警察の方とご緒に署へ向かわれました」

「警察署へ?」

「はい。事聴取があるそうでして……」

怪は軽微だったとしても、ひき逃げの容疑者だ。任同だとしても、そのまま柄を拘束される能性がある。私は胃が締め付けられるような焦燥を抱えながら、に戻って正さんの携帯に話をかけた。

度目のコールで、ようやく繋がった。

「正さん、いま警察ですか? 理恵は逮捕されてしまうんですか」

内のスピーカーから返ってきたのは、警察署のロビーとわれる、どこか反響するたい男の声だった。

「……織さんか」

その声には、昨夜の取り乱した様子はなかった。代わりに、奇妙なほど平坦で、何かの決を固めた特の諦のようなものが滲んでいた。

「理恵は逮捕されないよ」

「え? どういうことですか。示談の目処がったの?」

「違う」

正さんはく言った。

「事故を起こしたのは理恵じゃない。俺だ」

「……は?」

私のから、気の抜けたような声が漏れた。

「俺が自首したんだ。昨夜、妻のを借りて運転していたのは自分だと、交通課の担当刑事にすべて話した」

広告

ハンドルを握る私の指先から、すっと血の気が引いていくのが分かった。

「何を言っているんですか、正さん。冗談はやめてください」

「冗談じゃない。調も取ってもらっている。事故を起こしてパニックになり、現から逃げてしまったのは俺だ。理恵は助席に乗っていただけだ、とな」

のが真っになった。

りよりも先に、烈な違と恐怖が首筋をいがってきた。なぜなら、その嘘は、絶対に成してはいけないものだったからだ。

「正さん、嘘をつかないで。そんなの通るはずがないでしょう」

私は震える声で言った。

「昨の夜、からまでの、あなたはずっと私の部にいたじゃないですか」

通話の向こう側で、息を呑む気配がした。

「理恵が退院したばかりで着替えがりないからって、私がもって洗っておいた理恵のパジャマとタオル、それから頼まれていた用品を取りに来たのは誰ですか。うちのリビングで、マグカップに入れたブラックコーヒーをんでいたのは誰なんですか」

あのの記憶は、あまりにも鮮だった。

正さんが私のマンションに来たのは、昨夜の分だった。

オートロックをけ、玄関で袋を渡そうとした私に、正さんは「しだけ息をつかせてほしい。理恵の術以来、ずっと気が張っていて」

広告

と頼んできた。親友の夫が疲弊しきった顔をしていたから、私は彼をリビングに通し、コーヒーを淹れた。

私たちは来の族ぐるみの付きいだ。今さらきりになったところで気まずさなど微もない。

正さんはソファにくを沈め、テーブルののマグカップを両で包みながら、ぽつりぽつりと理恵の術の経過や、仕事の愚痴を話していた。

私は壁の掛け計をはっきりと見ている。

彼が「そろそろ帰るよ、ありがとう」とちがったのは、分だった。玄関をて、エレベーターの扉が閉まるのを見送ったのが分。

事故が起きたのは、警察の発表によれば昨夜の分だ。

「正さん、事故の瞬、あなた私の目のでコーヒーをんでいたのよ。現にいるはずがない。あなたには完璧なアリバイがあるの」

受話器の向こうから、たい沈黙だけが返ってきた。

「私が今から警察にきます。あなたがその、私のにいたことを証します。そうすれば、あなたの変な自首なんてすぐに取り消されますから」

「やめろ」

正さんの声がくなった。それは頼み込むような調子ではなく、どこか警告に似ていた。

「来るな、織さん。頼むから何もしないでくれ」

「どうしてですか! 無実のが代わりに刑務所へくなんて、理恵だって望むはずがないでしょう!」

「頼む」

それだけを繰り返すと、話はぷつりと切れた。

私はので、たくなったハンドルを力任せに握りしめていた。

夫が無実なのに自首し、妻はそれを黙認している。そして、そのアリバイを握る唯のである私に対して、を塞ごうとしている。

この夫婦は体、何を隠そうとしているのか。

私はエンジンをかけ、警察署ではなく、理恵が戻っているはずの彼女の自宅へとアクセルを踏み込んだ。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: