"金曜日の証言まであと三日" 第1話
夜の着信音
枕元でスマートフォンのバイブレーションが鳴ったのは、夜を回った頃だった。
くい振が、寝静まった寝のフローリングを伝ってくる。歳の体には、そのに起こされること自体がすでに暴力のようなものだった。画面を見つめると、液晶には「浦正」と表示されている。
来の親友である理恵の夫からだった。
正さんから私の個用の番号に話がかかってくることなど、に度あるかないかだ。賀状のやり取りか、あるいは理恵の誕にサプライズを仕掛けるくらい。嫌な胸騒ぎが胃の底をたく撫でた。
「……もしもし、織です。こんなにどうしたんですか」
返ってきたのは、ひどく擦れた、聞いたこともないほど狼狽した男の声だった。
「織さん……起こしてすまない。理恵が、事故を起こした」
のの眠気が、瞬で凍りついて消えた。
「事故? 理恵が? 怪は? いまどこにいるんですか」
「内の総病院だ。理恵自は……打撲と擦り傷で、命に別状はない。でも、相がいる」
正さんは度息を詰まらせ、喉の奥から絞りすように言った。
「自転に乗っていただ。交差点で巻き込んだらしい。……それだけならまだ、保険や示談の話もできたかもしれない。だが、理恵のは、そのからりったんだ」
広告
「え?」
を疑った。る? 現から?
「ひき逃げってことですか? そんなわけないでしょう」
私の声がわずずった。
「何かの違いです。正さん、理恵ですよ? スーパーの駐で隣ののドアにし鞄をぶつけただけで、相が戻ってくるまで分も待って謝るような子ですよ。パニックになってを寄せただけじゃないんですか」
「警察が来ている」
正さんの乾いた言葉が、私の反論をあっさりと遮った。
「目撃者がいた。種とナンバーが割れて、さっき警察から連絡が入ったんだ。防犯カメラにも、理恵の軽自がりる姿がはっきりと映っているそうだ」
言葉を失った。
受話器の向こうから、病院特のアナウンスと、い音がくに聞こえていた。理恵はに子宮筋腫の内鏡術を受けたばかりだった。退院したとはいえ、自宅で静にしていなければいけない期だ。そんな彼女が、なぜ真夜にを運転し、を撥ねてそのまま逃げるのか。
理恵とは学の入学式で隣の席になって以来、の半分以を緒に過ごしてきた。
私の婚が決まった夜、最初に駆けつけて晩背をさすってくれたのは理恵だった。理恵が正さんと結婚する、婚姻届の証欄にサインをしたのは私だった。お互いののい鍵を持ち、親の葬儀の段取りを伝い、何かあれば族よりも先に話をかける。
広告
その理恵が、に倒れたを放置して逃げたという。
「……私、今すぐ病院にきます」
「いや、来なくていい。いま来ても、警察の聴取があって会えない」
「でも!」
「頼むから、今夜はで待っていてくれ。朝になったら、状況を連絡するから」
話は方に切れた。
私はベッドのに座り込んだまま、たくなったスマートフォンの画面を見つめていた。部のには、壁掛け計の秒針が刻む規則正しい音だけが響いている。
理恵がを撥ねて逃げた。
その事実が、どうしても脳の神経に噛みわない。彼女の臆病な性格をっているなら、誰もが同じ反応をするはずだった。虫匹殺すのにも躊躇するような女が、血を流して倒れているを見捨ててアクセルを踏む姿が、どれだけ像力を絞っても浮かんでこなかった。
眠れるはずもなかった。
私は夜けの暗い部でを着替え、やかんにお湯を沸かし、もめないインスタントコーヒーを淹れた。
理恵、あなた体、昨の夜どこへこうとしていたの。
その問いの答えをる由もないまま、窓のの空が、苦しい鉛にみ始めていた。