"四年間、他人の父親" 第14話
廊に響くチャイム
曜の朝、分。
昨夜の激しいはがり、の切れから初の湿った差しが差し込んでいた。濡れた庭のアスファルトからちる蒸気と、消毒液の混ざった古い舎の匂い。
若葉学の階、指導のの廊に、私たちはいた。
壁際に浅野陸がっていた。制のズボンの裾はでわずかに汚れ、黒いリュックサックを両で抱え込むようにして、のリノリウムの点を見つめている。もしていないのだろう。目のには青黒い隈が浮き、唇は血の気を失って刻みに震えていた。
その横で、川が焦燥を剥きしにして廊をき来していた。元のクリアファイルから、昨夜の『緊急保護者代理選定届』を抜き取り、私の先に突きつける。
「美さん、もうがない。分には教と川が入ってくる。織さんはまだ武蔵野署からられてねえ。連絡も取れねえんだ」
川の声は掠れ、苛ちで裏返っていた。彼はポケットから昨夜の黒いボールペンを引っ張りし、私の掌に無理やり握らせようとした。
「ここに名をくだけだ。『田美』。続柄は『父・田浩の配偶者』。教には話をつけてある。あんたがサインして面談に入りゃ、学側も『庭内の混乱による特例』として教委に推薦類をそのまま通せるんだよ!」
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ペンのたいプラスチックの触が、私の指にい込んだ。
顔をげると、陸の線とぶつかった。
は何も言わなかった。助けてほしいと縋るような目ではなかった。むしろ、「どうせあんたもの都でくんだろ」という、めきった諦めと憎しみが、その乾いた瞳の底で鈍くっていた。
キーン、コーン、カーン、コーン。
無慈な予鈴のチャイムが、静まり返った廊に甲く鳴り響いた。
指導の引き戸がガラリとき、から教の岡部と、担任の川が姿を現した。は私の姿を認めると、堵と事務な徹さが混ざったような表で会釈した。
「田さん、お待ちしておりました。浅野織さんが来られない事は川さんから伺っております。代理としての続き類はお持ちですね?」
教の線が、私の元にあるの申請に落ちた。
川が私の背をく押した。
「ほら、美さん、く!」
私は息をく吸い込んだ。胸の奥に鉛のように溜まっていたたい空気を、ゆっくりと吐きす。
そして、のにあった黒いボールペンを、川の胸元へく押し返した。
「……きません」
廊の空気が、凍りついた。
川の目が信じられないというように見かれた。
「は……? あんた、今さら何言って……」
「私はこの類に署名しません」
私は教と川に向き直り、はっきりと通る声で告げた。
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「私は浅野陸くんの母親でも、保護者でもありません。くなった夫が過に何をしていたとしても、私がこの子の親族面をしてこの席に座る筋いはありません」
「ふざけんなよ!!」
川が鳴り声をげ、私の肩を掴もうとした。川が慌てて割って入る。「川さん、内です、やめてください!」
その騒ぎの、壁際にいた陸が歩にた。
の顔はりと絶望で見苦しく歪んでいた。握りしめた拳の爪が、掌の皮膚を破らんばかりにくなっている。
「……何しに来たんだよ」
く、絞りすような声だった。
「助ける気もないのに、わざわざ見物に来たのかよ! 俺が推薦取り消されて、全部失うところを特等席で見に来たのかよ!」
陸の叫びが、がらんとした廊に霊した。
私は逃げなかった。陸の真っ赤に充血した目を、真っ直ぐに見つめ返した。
「そうよ。浩はんだの。この世のどこを探しても、もうあなたのために父親のふりをしてくれるはいないわ」
「美さん、いい加減にしろ!」川が叫ぶ。
私は川を無し、陸にだけ届くように言った。
「誰かがあなたの親の席に座り続ける限り、あなたは、の嘘の庇護のに閉じ込められる。そんな推薦をもらってへって、その先もずっと嘘をつき続けるつもり?」
陸の唇が震え、言葉を失った。
本鈴のチャイムが、から容赦なくり注いだ。
午ちょうどだった。