"四年間、他人の父親" 第10話
のそうだな
『子を埋めに来ただけだ』。
陸の放った言葉が、ので激しい鳴りのように反響していた。
浩は父親になりたかったわけではない。だが、の庭の空を埋めるために、もの歳を費やした。では、私と暮らしたので、あのが埋めたかったものは何だったのか。
私はそので、武蔵境の川自備へ向かった。
夜のを回り、のシャッターは半分りていたが、奥の事務所には蛍灯のいが灯っていた。
私はノックもせず、アルミの引き戸をけた。
「川さん」
デスクで伝票の束を睨んでいた川が、驚いて顔をげた。机のには、コンビニのめた焼きそばパンと、缶コーヒーが転がっていた。
「美さん……また来たのか。昼、織さんから話があったよ。あんたが全部ったって」
「つだけ、どうしても答えてほしいことがあるの」
私は事務所のパイプ子を引き、川の真正面に座った。
「浩が最初にあの親子の面倒を見始めたのは、のの救急病院だったと織さんから聞いたわ。でも、浩が本格に学事や面談に関わり始めたのは、いつから?」
川は線を逸らし、吸い殻で盛りになった皿を弄んだ。
「……そんなこと聞いて、どうするんだよ」
「答えて。にの面談へったのが最初じゃないはずよ。
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浩が織さん親子の相談に乗り始めた、本当の最初の期を教えて」
川はく息を吐き、を抱えた。
「……くらいだよ」
の換気扇の回る音だけが、やけにきく響いた。
「……?」
「浩と美さんが、結婚してちょうど目のだ。浩が突然、俺のに来てさ。『検の類のき方を教えてくれ』って言ってきた。織さんのボロい軽の検を通すがなくて、浩が自分で陸運局へ持ち込んでく通してやるためだった」
目の。
その言葉を聞いた瞬、私の背筋を氷の刃が撫でていった。
記憶の底から、鮮な景が浮してくる。
吉祥寺のイタリアンレストラン。結婚周の記だった。私はその、パート先から正社員登用の打診を受け、昇が決まったばかりだった。
ワイングラスを掲げ、私は向かいの席に座る浩に向かって、屈託のない笑顔でこう言ったのだ。
『ねえ浩、私たち、子どもを作らなくて本当に正解だったわね。だけで軽だし、お互いの仕事に集できるし。今が番自由で楽しいわ』
あのの浩の表を、私は今でもはっきりと覚えている。
浩はグラスを持ったまま、ほんの数秒だけ線を泳がせ、それからいつもの穏やかな、優しい笑顔を作って、静かに頷いたのだ。
『……そうだな』
たった文字。
りも、落胆も、否定も含まれていない、静かな肯定。
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私はその言葉を、『夫も自分と全く同じ価値観を共している』という完全な証拠だと信じ込み、そののを疑いもせずにきてきた。
「浩は……何か言ってた?」
私の声は、自分でも驚くほど掠れていた。
「子どもが欲しいとか、寂しいとか……私に言えなかったことを、あなたに漏らしたことはあったの?」
川は顔をげ、苦渋に満ちた目で私を見た。
「浩は、誰の悪も言わねえ男だったよ。美さんの選択を否定したことなんて度もねえ。『美が笑って暮らせるのが番だ』って、いつも言ってた」
川はちがり、事務所の棚の奥から、埃を被った古い袋を取りした。
「ただな……そのの、浩が初めて陸の学の入学説会へった帰り、俺のに寄ったんだ。あいつ、普段は絶対に買わねえような、な紺のネクタイを締めてた」
袋から取りされたのは、仕てももっぽい、量販で売られている紺無のネクタイだった。
「浩が言ってたよ。『美のでこれを締めるわけにはいかないから、おのロッカーに置かせてくれ』ってさ。あいつ、自分のには絶対に持ち帰れない自分を、ここに預けてたんだよ」
私はそのネクタイを両で受け取った。
、同じ根ので眠り、同じ朝をべ、何でも話しってきたはずの夫。
その夫が、私に度も傷を負わせないために、そして自分自の奥底にある何かを守るために、密かに締めていた本の布切れ。
私はそのからくことができなくなっていた。