"四年間、他人の父親" 第5話
黒皮の帳の空
川の備を辞したあとの記憶は、ひどく曖昧だった。
どうやって駅まで歩き、どのに乗ったのかも覚えていない。気がつくと、私は暗い自のフローリングに膝をつき、押し入れの奥から引っ張りした段ボール箱のに座り込んでいた。
『浩 私物』とマジックでかれた段ボール。
周忌が終わるまでける気になれなかった夫の遺品だった。類や靴はほとんど処分したが、斎の机の引きしにあった細々とした類や帳だけは、どうしても捨てられずに詰め込んであったのだ。
震える指でガムテープを剥がし、底のほうから黒いビニール表の帳を引っ張りした。浩が、背広の内ポケットにいつも入れていた能率帳だ。
、、。古い順に冊並べ、川から突きつけられたあの学事のコピーと見比べた。
付を追うごとに、胃の奥がたく縮んでいく。
例えば、の第曜。
帳のそのの欄には、黒いボールペンでさく『川 検伝い』とかれていた。私はそのの朝の景を鮮に覚えていた。「川のが忙しいから、昼飯はいらないよ」と言って、浩は自らアイロンをかけた淡いブルーのシャツを着てかけていった。私は「気をつけてね」と笑顔で見送り、自分は友と吉祥寺でランチを楽しんでいた。
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だが、帳の文字の横に添えられた学のプリントには、こう印字されていた。
『武蔵野若葉学 季運会 保護者観覧について』
別の、の平。
帳には『本社倉庫 棚卸し』。学の記録は『第学 授業参観および懇談会』。
さらに翌の。帳には『川と釣り 直帰』。学の記録は『第学期 個面談』。
全部、嘘だった。
浩は度たりとも、怪しまれるような審なをしなかった。泊もせず、夜帰宅も滅になく、与細の振込額も円の狂いもなかった。完璧な夫だった。波をてず、妻にを与えず、休は穏やかに微笑んでいた。
その穏やかさの裏で、浩は私のらないの運会にき、庭の隅での父親たちに混ざって拍を送っていたのだ。
押し入れの奥に吊るされたままの、浩が休に好んで着ていたチャコールグレーのブルゾンに目が留まった。
ちがり、吸い寄せられるようにそののにった。放置されていた布からは、微かに防虫剤の匂いと、嗅ぎ慣れた夫の匂いがした。
何気なく、の内ポケットにを差し入れた。
指先に、いプラスチックの板が触れた。
引き抜いてのひらに載せた瞬、息が止まった。
全ピンのついた方形のプラスチックプレート。黄いリボンが千切れかけてぶらがっている。
表面には、油性ペンでこうかれていた。
『武蔵野若葉学 令〇度季運会 保護者(父)』
浩は、これを捨てられずに持ち帰っていたのだ。