"四年間、他人の父親" 第2話
井の字の最のはね
翌朝、私はパート先に半休の連絡を入れ、午に若葉学の正をくぐった。
舎の昇にはワックスの匂いと、すれ違う徒たちの運靴のゴムの匂いが満ちていた。案内された階の指導で待っていると、鏡をかけた細の男性教員が入ってきた。話で話した担任の川だった。
「急なお願いをして申し訳ありません、田さん」
川は警戒と当惑の混ざった目をしていた。彼からすれば、昨まで当たりにしていた徒の父親が、突然現れた自称・妻によって「にんでいる」と告げられたのだ。当然の反応だった。
私はバッグから、浩の除籍謄本を取りし、テーブルのに置いた。
『 令〇』
役所の公印が鮮に押されたその面を、川は両で持ちげ、まじまじと見つめた。額にい汗が滲んでいくのが分かった。
「……本当に、くなっておられる」
「話でも申しげました。夫はに病気で息を引き取りました。先ここに現れた男性が誰なのかはじませんが、夫であるはずがありません」
川は息を呑み、元に置いてあった青いファイルをいた。から取りされたのは、『相談受付票』と題された学の内部記録だった。
「先の午、この部でわれた面谈の記録です。
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来された保護者の方に、こちらの受付簿へ直接サインをいただきました」
差しされたクリアファイルの部に、黒の油性ボールペンでかれた署名欄があった。
『保護者氏名:田 浩』
『現所:武蔵野緑町丁目……』
がの所だった。
そして、その名を見た瞬、私の指先からさっと血の気が引いた。
の空似でも、似た跡の別でもなかった。
『田』の『田』の字の、真んの字がわずかにへ傾く癖。そして『浩』の文字の、側の『告』の横棒が、よりもの方がわずかにくなるバランス。何より決定だったのは、所欄にかれた『鷹井の……』という旧所の控えにあった、『井』の字だった。
最の画目、に引かれる縦棒の先端に、米粒よりもさな、撥ねとも点ともつかないインクの溜まりがある。
浩はの結婚活の、類に署名する際、必ず『井』の字の最をにく押し付けてからペンをす妙な癖を持っていた。賃貸契約でも、災保険の更でも、賀状の宛名でも、浩のく『井』には必ずあのさな突起が残る。
私以のが気づくはずもない、浩だけの体の癖だった。
の芯がたく痺れていく。
これは、誰かが夫の名義を適当に騙ったのではない。浩自が過にいた文字をそのまま写したか、あるいは――。
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「田さん、丈夫ですか? 顔が……」
川の声がくから聞こえた。私は震える指で受付簿を指した。
「このサインをいた物は、どんな見でしたか? 齢は? 背格好は?」
「ええと……代半くらいで、がっしりした体格の方でした。作業着のに紺のジャケットを羽織っておられて、し無な印象でしたが、陸くんの成績やについては非常に真剣に聞いておられました」
浩のの姿とは違う。浩は痩せ型で、どちらかといえばのサラリーマンだった。作業着を着るような体格のいい男ではない。
が、夫の跡を完璧にトレースしてサインしている。
「……その、浅野陸くんという徒は、今どこにいますか」
私が問うと、川は躊躇するように線を泳がせた。
「今は目の授業です。ですが、保護者の方の事に徒を直接巻き込むのは、学としては……」
「巻き込んでいるのはそちらです」
私は努めて声をく抑えた。
「んだの名と私の自宅の所が、公学の公類に勝に登録され、見らぬが夫に成りすまして入りしているんです。これを警察に相談するべき事案ではないと、先は言い切れますか」
警察という単語をした途端、川の喉仏がさくした。彼は元のファイルを抱え込むようにして、いをいた。
「……実は、先の面談のあと、し気になって陸くんに確認したんです。お父様とお母様は別居されているのか、それとも何か複雑なご事があるのかと。浅野は母子庭として就学援助の申請がされていましたから」
「陸くんは何と答えたんですか」
川は声を潜め、指導の扉をちらりと見てから言った。
「『あのは本当の親父じゃない』と。陸くんは最初から、あのに座っていた男性が父親ではないとっていました」