"誰も売るなと育てた父" 第11話
フェンス越しの夕焼け
「追っ……てきた?」
私のから、の抜けた呟きが漏れた。
『ええ。の、凍えるような枯らしが吹くだったわ』
久美は淡々と、しかし鮮に、その景を言葉にして紡ぎした。
『母親と、私鉄のローカル線の改札をくぐって、り線のホームでを待っていたの。そしたらね、改札のの網フェンスの向こう側に、息を切らした浩君がっていたのよ。制のボタンはれて、カバンを握りしめたまま、肩で激しく息をしてね』
私の目のに、の夕暮れに染まる無駅の景が広がった。
『浩君の顔は、涙とでぐちゃぐちゃだった。私の姿を見つけると、フェンスにしがみつくようにして、何かを叫ぼうとしていたわ。がパクパクといていたけれど、の音で声は聞こえなかった』
「父は……ホームに入ってこなかったんですか」
『跨線を渡ってホームに来るためには、百円の入券を買わなきゃいけなかった。だけど浩君は、フェンスを掴んだまま、歩もけなかったの。駅員に声をかける勇気も、跨線の階段を駆けがる勇気もなかったのよ。……ただ、網目の向こうから、泣きそうな目で私を見ていただけ』
やがてりが滑り込んできて、久美は母親に背を押されて内に乗り込んだ。
ドアが閉まる寸、窓越しに見た浩は、まだフェンスに額を押し当てたまま、ち尽くしていたという。
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『がきしても、浩君は追ってこなかった。たださくなっていく彼を見ながら、私はったわ。「ああ、このは、この網の向こう側からられないんだな」って』
久美の声には、もはや憎悪もりもなかった。ただ、放置された事実に対する、たい諦だけが漂っていた。
『浩君はね、自分が取り返しのつかない罪を犯したことを、らなかったんじゃない。あの、あの瞬から、っていたのよ。っていながら、、網の向こうで震え続けていただけなの』
「川さんは……どうして今夜、同窓会に来るんですか」
私は震える声で尋ねた。
「父を、みんなので断罪するためですか」
『馬鹿ね』
久美はくを鳴らした。
『そんな暇なこと、の女がするわけないでしょう。私はただ、見にくだけよ。あの夕方、網の向こうでち竦んでいた臆病なが、の歳を経て、しは自分ので跨線を渡れるになったのかどうかをね』
プツリと、方に通話が切れた。
ツーツーという無質な発信音が元で鳴り続ける、私は内に取り残されていた。
父は、逃げていたのだ。
「庭の事で辞めたんだ」「俺のせいじゃない」と息子に言い訳を並べてながら、その実、の駅のフェンスから、歩もにめていなかった。
自宅へ取って返した私は、玄関のがり框に置かれていた、昨父が持ち帰った黒い装カバーの元へ歩み寄った。
カバーの裾から覗いていた袋を引っ張りし、底に落ちていたレシートを拾いげる。
そこには、スーツの代とともに、購入が印字されていた。
昨ではない。
『 分』
週。
同窓会の案内状と、久美の名が載った席者名簿が自宅に届いた、まさにそのの付だった。
父は昨スーツを買ったのではない。週、久美が席することをったそのの帰りに、何かに取り憑かれたようにこのスーツを誂えていたのだ。