"誰も売るなと育てた父" 第10話
指の約束
「じゃあ……」
私の声はけなくかすれていた。
「父のせいで、学を辞めたわけじゃない……ということですか」
『そうよ。あんな切れ枚の秘密が漏れたところで、私の現実がひっくり返るわけじゃない。そんなことでが狂うほど、当の私の毎は甘いものじゃなかったわ』
川久美の言葉は、まるでを削ぎ落とした報告のようだった。
『黒田たちが私を乞と呼んで笑おうが、取り巻きがバイ菌扱いしようが、そんなことは痛くも痒くもなかった。あいつらは最初から、そういうき物だとっていたから』
久美はそこで言葉を切り、背で再びプシューと蒸気が噴きす音がした。
『でもね、息子さん。浩君だけは、違ったのよ』
受話器を握る久美の声に、初めて微かなが宿った。それは、燃え尽きることなくのに埋もれていた残りのようだった。
『あの、の半ばの放課だったわ。特別教のワックスがけをでやっていた、私がわず泣き言をこぼしたの。「もうすぐ引っ越さなきゃいけない。夜逃げするんだ」って。浩君は雑巾を持ったを止めて、真っ赤な顔をして言ったわ。「誰にも言わない。絶対に誰にも言わないから」って』
私の脳裏に、歳の父の姿が浮かんだ。油じみた作業着の父親を持ち、教でを縮めていた。
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『私たちはね、指を絡めて約束したのよ。あの教ので、親の貧しさや庭の崩壊を、唯そのままの形で見せえる相だった。黒田たちにどれだけ唾を吐きかけられても、浩君と背をわせているだけは、でいられたの』
久美の乾いた声が、静かに私の胸を抉る。
『だからこそよ。あの、黒田たちの輪のから浩君ので「あいつの、今末に夜逃げするんだ」と暴された……私の体から血の気が全部抜けたわ。黒田にを投げられたんじゃない。たった、背を預けていた方に、ろから喉元を裂かれたのよ』
息ができなかった。
「父は……父は昨、泣いていました。自分も体育倉庫に閉じ込められて、追い詰められて、ああするしかなかったんだと……」
『っているわよ』
久美は即座に切り捨てた。同の欠片もない、しかしすべてを徹に見透かした声だった。
『あの子がくて、臆病で、自分が助かりたいだったことくらい、歳の私にだって痛いほど分かっていたわ。だからみ言を叫びもしなかった。……だけどね、息子さん』
久美はそこで、ふっと奇妙なを置いた。
『浩君は、自分が何をやったか、そののうちにちゃんと理解していたはずよ』
「どういう……ですか」
『あの、私が退学届をして、荷物を詰めた段ボール箱を抱えて学をたの夕方よ。
……浩君、駅までって追いかけてきたのよ』