"誰も売るなと育てた父" 第7話
教の隅の共犯者
テーブルを挟んで、野のえ切った線が私を捉えてさなかった。
「教が、ドッと沸いたよ」
野は当の景を昨のことのように語り始めた。
「それまではただの『貧乏な女子』だった川が、その瞬から『夜逃げ寸のヤミ娘』になった。黒田たちは腹を抱えて笑い、取り巻き連はを叩いてを囃してた。『お、いい報持ってるじゃん』ってな。は顔を真っ赤にして、照れ笑いのような卑しい笑みを浮かべていたよ。あののあいつの顔を、俺は経った今でも忘れられない」
胃の奥が雑巾のように絞られる。吐き気がせりがってきた。
「翌から、川の机には赤い油性ペンで落きがされた。『夜逃げ準備完』『返せ』『ドロボウの娘』。川は泣かなかったよ。ただ、毎朝登してくると、雑巾をで濡らして、黙々とその文字を擦り落としていた。……その、が何をしていたか分かるか?」
私は答えることができなかった。首を横に振る力すら残っていなかった。
「黒田たちの机の周りで、声でプロ野球の話をして笑っていたよ。度も川の方を見ようとしなかった。目をわせたら、また自分が『あちら側』に引きずり戻されるのが怖かったんだろうな。川が学をるまでの週、の靴箱から履きが消えることは度となくなった。
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あいつは川の尊厳を贄にして、自分の全を買い取ったんだ」
「でも……」
絞りすような私の声は、ひどくけなく震えていた。
「でも、直接をしたのは黒田たちでしょう? 父は、ただ秘密を漏らしただけで……」
「健太さん」
野がい語気で私の言葉を遮った。
「赤のにを投げられるよりな、唯信じて背を預けていたにろから刺される方が、百倍痛いんだよ。川にとって、黒田たちの悪なんて定内だったはずだ。だがだけは違った。のあの言が、川のを完全に殺したんだ。……俺たち傍観者も同罪だ。止められなかった俺たちもクソ野郎だよ。だがな、あの同窓会の席で、が『俺も被害者だった』なんて顔をして座っているのを、俺は見たくない。吐き気がするんだ」
野は千円札を伝票のに叩きつけると、それ以言も発することなく席をった。
夜の国を、型トラックが響きをててりっていく。
私はどうやってを運転して自宅まで戻ったのか、記憶が定かではなかった。
午零を過ぎたがは、玄関のポーチライトだけが暗く灯っていた。鍵をけてに入ると、廊の突き当たり、父の部の引き戸の隙から細いが漏れていた。
私は靴を脱ぎ捨て、迷うことなくその引き戸を乱暴にけ放った。
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畳の部の央、古びた座卓のに、父は背を丸めて座っていた。
そのには、先ほど百貨で買ってきたばかりの、品のネクタイが握られていた。値札のついた濃紺のシルクタイを、父は何度も、何度も指先で撫でていた。
私が息を荒らげてっていることに気づくと、父はビクリと肩を震わせ、ネクタイを慌てて隠そうとした。
その卑屈な仕が、私の理性を完全に吹きばした。
「父さん」
私は父のにちはだかり、見ろすように言い放った。
「『自分が弾かれたくないからって、い奴を贄にするな』……そう言ったよな。学の、学にけなくなった俺の肩を掴んで、泣きそうな顔で教え込んだよな」
父の体が凍りついた。
「あれは、自分の罪を隠すための呪文だったのか? 自分が久美さんにやった卑怯な裏切りを、息子に正義面して説教することで、帳消しにしようとしていたのか?」