"誰も売るなと育てた父" 第5話
同じ匂いの弁当箱
茶のの蛍灯の、私はスマートフォンの画面を父の目のに突きつけた。
「内さんから名簿をもらったよ。……『川久美(席)』っていてある。父さん、この名を見てもまだ『覚えてない』って言えるのか?」
父は卓の子に浅く腰掛けたまま、差しされた液晶画面から目を背けなかった。だが、その線は画面の文字ではなく、もっとく、何もない畳の目の点に注がれていた。
台所の換気扇が、油の切れたい音をてて回っている。
「……健太」
掠れた声だった。父は両を膝ので固く握りしめた。作業で摩耗し、指紋の溝に黒い械油が沈着したきなだった。
「嘘をついて、悪かった」
父は息をひとつ落とし、諦めたようにをいた。
「覚えているよ。忘れるわけがない。……久美は、同じクラスだった」
「どうして今朝はらないって言ったんだ」
「おに話すようなことじゃないとったからだ。……の、ただの昔話だ」
「ただの昔話なら、どうして同級が揃って『父さんを来るな』って僕に警告してくるんだよ!」
私の詰問に、父は痛みに耐えるように眉を寄せた。
「あいつらが何を吹き込んだかはらん。だがな、久美が学を辞めたのは庭の事だ。あいつの母親が額の借を背負い込んで、アパートの賃も払えなくなって、夜逃げ同然に町をてったんだ。
広告
俺のせいじゃない。俺には何の責任もない」
「は、親しかったんだろ?」
父の元が、わずかに歪んだ。自嘲のような、苦い笑いだった。
「親しかったというか……浮いていたんだよ、とも。あの学はサラリーマンの庭か、医者や代議士のの子息ばかりだった。俺の親父は町の旋盤で、爪のはいつも真っ黒だった。久美のは父親が蒸発していて、母親が夜の清掃でいつないでいた。持ってくるアルミの弁当箱をけると、ともはの丸の梅干しと、醤油で炒めたキャベツだけだった」
同じ匂いがしたのだと、父は言った。
貧乏の匂い。遣いを持たない惨めさ。放課、部活にもかずに残され、だけで教のに油を引くワックスがけを押し付けられていた々。
「あいつとは、よく話した。お互いののこと、親の借のこと、将来どこかのに就職して自活したいってこと……。あいつだけが、俺の作業着姿の親父を笑わなかったし、俺もあいつの擦り切れた袖をからかわなかった」
「それなら……どうしてあんなメッセージが届くんだ」
「らんと言っている!」
父は唐突にテーブルを拳で叩いた。湯呑みがガタツキと音をてて揺れる。
「あいつらは昔からそうだ! 自分たちが全な所からを投げておいて、いざ誰かが壊れたら、番のいに罪をなすりつける! 俺は久美を追い詰めてなどいない! 俺もあいつらから毎、ゴミ箱に教科を捨てられていたんだ!」
荒い息を吐く父の目は血っていた。
その激昂は、潔を証するためのものではなく、自らに言い聞かせるための叫びのように聞こえた。
その、ポケットので私のスマートフォンがく震えた。
画面をくと、昨夜警告を送ってきた目の男――野からのダイレクトメッセージだった。そこには図アプリのリンクと、い文面が記されていた。
『は自分に都のいい部分しか話していないはずだ。川さんが学をる直の週に何が起きたか、息子のあんたがるべきだ。今から国沿いのデニーズに来られるか』
私はちがり、コートを掴んだ。
父は背を丸めたまま、度と私を見ようとしなかった。