みかん小説
本棚

"誰も売るなと育てた父" 第4話

黒いビニールカバー

は容赦なく削られていく。

曜の午、私は結局会社を休んだ。自のに座り込み、の同窓会名簿とスマートフォンをに、幾度となく呼吸を繰り返した。

内が言っていた言葉の断片が、ので何度も霊する。

――は、自分が被害者だった記憶だけを綺麗に編集して保できる。

父の斎にある本棚の奥から、私は父の古いアルバムを引っ張りしていた。分い布張りの卒業アルバム。だが、いくら頁をめくっても、クラス写真のに「川久美」という女子徒の姿は見当たらなかった。のにった徒は、卒業アルバムの集写真には残らない。

代わりに挟まっていたのは、褪せた数枚のスナップ写真だった。文化祭の準備景だろうか。段ボール箱を抱えた父の、そのすぐ斜めろに、お世辞にも入れされているとは言えない伸び放題の黒髪を束ねた、ひどく痩せた女が写り込んでいた。

カメラを識することなく、のモップがけに線を落としている。そのブレザーの肘のあたりは、内の言葉通り、テカリを通り越して布が擦り切れていた。

その写真の裏面には、鉛のい跡で、こうかれていた。

『昭591018 教美化コンクール』

久美が姿を消す、わずかヶの付だった。

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私が学の、サッカー部のグループから突然無され、毎朝学にくのが怖くて玄関で泣き崩れたことがあった。その、父は仕事着のまま私のにしゃがみ込み、私の両肩を痛いほどの力で掴んで言ったのだ。

「健太、仲れにされるのはぬほど辛い。だがな、自分が弾かれたくないからって、誰かを指差して笑う側のには絶対になるな。群れに入りたいでい奴を贄にするような真似だけは、んでもするな。それはな、をやめることだ」

あのの、鬼気迫る父の目を覚えている。

父は泣いていた。涙を流さないまでも、声を限界まで震わせて、私にそう教え込んだ。

私はその言葉を、父の「としての気さ」の証拠だと信じ続けてきてきた。理尽な暴力に屈しなかった、孤独な職の矜持だと誇りにってきた。

だが、もしあの言葉が――。

自分自の過の汚辱から目を背けるために、息子に託した「祈り」に過ぎなかったとしたら。

計の針が午を回った頃、玄関の引き戸がガラガラとい音をてていた。

父が帰ってきたのだ。

私はリビングのソファからちがり、廊へた。

玄関のにっていた父は、いつもの油で汚れた作業用リュックを背負っていなかった。に切そうに抱えられていたのは、百貨のロゴが入った、黒いポリエチレン製の装カバーだった。

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隙から覗くファスナーの引きには、まだされていない値札のいタグが揺れている。

父は、のためにしいスーツを買ってきたのだ。

決して裕福ではない父が、普段は量販の吊るしのジャケットすら滅に買わない男が、池袋の百貨で、わざわざ仕てろしのスーツを誂えてきた。

「……父さん」

私が声をかけると、父はびくりと肩をねさせた。

黒いビニールカバーを背に隠すように、ほんのわずかを引く。その顔には、見られたくない秘密を暴かれた子供のような、痛々しい羞恥のが張り付いていた。

「あ、ああ。……ちょっと、駅でな。のやつ、昔のスーツじゃ腹がきつくなってたもんで」

父は乾いた声でそう言い訳をにしながら、逃げるように靴を脱いだ。

だが、カバーの隙から覗く袋の底には、折りたたまれたレシートの角が挟まっていた。印字された付は、名簿が送られてきた週ではない。

『本 1842分』

父は、今朝私が「久美」の名をしたそのの帰りに、このスーツを買いにったのだ。

の空を埋めるためではない。

自分を嘲笑った連を見返すためでもない。

父のその頑なな横顔には、というを恐れながらも、どうしても逃げすことのできないの、異様な切迫が漂っていた。

「父さん、の同窓会だけどさ」

私の言葉に、父は装カバーを抱きしめたまま、背を向けた状態でを止めた。

「俺も、会のまで送っていくよ。をすから」

父は振り返らなかった。ただ、カバーのビニールが擦れうカサリという微かな音を残して、自分の部へと静かに歩みっていった。

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