みかん小説
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"誰も売るなと育てた父" 第3話

の座席表

話の向こうから、いため息が漏れ聞こえてきた。をめくるような乾いた音がかすかに混じる。

『脅迫などしていませんよ。私はただ……あの惨劇を、の節目にわざわざ掘り返したくないだけなんです』

「惨劇?」

私は語気をめた。

「父から聞いています。父が代、どんな目にあわされていたか。駄箱の靴を捨てられ、体育倉庫に閉じ込められ、お弁当のおかずをゴミ箱に落とされた。それを見て見ぬふりをして嘲笑っていたのは、あなたたちのほうじゃないですか! 被害者だった父が、どうして今になって参加を拒絶されなきゃいけないんですか!」

気にまくしてた私の言葉を、内は遮ることなく最まで聞いていた。

そして、ひどく淡な、しかし底れぬ痛みを孕んだ声で、静かに切り返してきた。

『は、確かにいじめられていましたよ。からの初めにかけて、黒田やその取り巻き連から湿な標にされていたのは事実です。彼があなたに話したことは、嘘ではない』

「だったら――」

『だが健太さん、はね、自分が被害者だった記憶だけを綺麗に編集して保できるき物なんですよ』

内の言葉が、私の喉元に鋭利な刃物のように突き刺さった。

『受けてきた苦痛がどれほど本物であっても、そのことが、に自分が犯した裏切りを帳消しにしてくれるわけじゃない』

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「裏切り……? 父が、誰を裏切ったというんです」

『川久美さんですよ』

内は、昨夜のメッセージと同じ名をにした。

『久美さんはね、お父さん以に貧しい境遇でした。父親が借を残して蒸発して、お母さんが夜遅くまで働き詰めでね。制の袖はいつも擦り切れていて、費や積の滞納者リストにいつも名が載っていた。教ので、と川さんは、いわば同じ“底辺”に追いやられた同盟者だったんです』

私の脳裏に、古い造舎の教の隅で、を寄せうように掃除当番をすると女の姿が浮かんだ。

「は、親しかったんですか」

『ええ。放課はいつもで残って教を掃除し、同じ方向のに乗って帰っていた。にとって、自分の惨めさを唯見せられる相が久美さんだったし、久美さんにとってもだけが、柄や貧しさを理由に自分を嘲笑わない唯の避難所だったはずです』

「それなら、なぜ……」

『なぜ久美さんがの半ばに、誰にも告げずに学から姿を消したのか。その直、あの教で何が起きたのか』

内はそこで度言葉を切り、苦しい沈黙を置いた。

『私はそのにいたとして、今でもあのの笑い声をいすと吐き気がする。……健太さん、これ以は私のからすべてを話すべきじゃない。

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だが、あなたがまだ「父親は方な被害者だ」と言い張るなら、今すぐ送るリンクの名簿を見てください』

通話が方に切られた。

スマートフォンの画面が暗転し、数秒にメッセージアプリの通音が鳴った。内から送られてきたのは、クラウドストレージに保された枚のPDFファイルだった。

第期・同窓会席者最終確認表。

震える指で画面を拡する。クラスごとに男女の音順で名が並び、氏名の横には「〇」か「×」の記号が械に打ち込まれていた。

組、男子。

浩の欄には、確かに赤のペンツールで「〇」がつけられている。

そして、私の線は女子の欄へと滑り落ちていった。

という歳ので、所や物故者として「×」が連なる、名簿の最段に、その名はあった。退者を示すさな米印の横に、墨黒のフォントで記された文字列。

川久美。

その横の席確認欄に、太い赤字で刻まれていた記号は、違いなく「〇」だった。

もの、度たりとも同窓会の案内板に名すらがらなかったはずの女性が、席のを表している。

父の携帯には何の連絡も入っていない。だが、同級たちはっていたのだ。この名簿が確定した点で、がのを経て同じ部に顔を揃えることになるという事実を。

胸の奥が、氷を流し込まれたようにたくなっていった。

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