みかん小説
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"誰も売るなと育てた父" 第1話

午零の通音

父のの甲には、以の消配管の破裂事故でついた、赤黒いケロイド状の傷痕がある。

その節くれだった指が、卓の隅に置かれた枚の往復ハガキのを、迷うようにき来していた。

県第期、周記同窓会。

「今更、どんな顔してきゃいいんだか」

父・浩は歳になる。をてから定をに控えた現まで、ビルの設備や排ポンプの保守点検だけを筋に続けてきた職だ。油と錆の匂いが染みついた作業着が父の制であり、派な社交や酒席とは無縁のを送ってきた。

「ってみればいいじゃないか。父さん、で僕を学までして、仕事も真面目に勤めげてきたんだ。昔の連に胸を張って会ってくればいいんだよ」

私がそう声をかけると、父は困ったように目尻をげ、力なく笑った。

「胸なんて張れる分かよ。……昔のクラスはな、医者の倅だの会社の役の息子だの、持ちのボンボンばかりだった。俺みたいな員の倅は、毎朝教の引き戸をけるだけで胃が痛くなったもんだ」

父が酒に酔った際、ごく稀に漏らしていた昔話だった。履きを隠されたこと。体育倉庫のから京錠をかけられたこと。父親の作業着の汚れを指差して笑われたこと。

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だからこそ、父が往信ハガキの「席」の欄に震えるペン先で丸をつけたとき、私はしだけ誇らしい気持ちになった。過の惨めな記憶に、歳になった父がようやく区切りをつけようとしているのだと信じたからだ。

異変が起きたのは、同窓会を翌々の曜に控えた、曜の夜零を回った頃だった。

ベッドのでスマートフォンを見ていた私の画面に、メッセージアプリの通が滑り込んできた。送り主は「内誠」。見覚えのないアカウント名だった。

『夜分遅くに変申し訳ありません。あなたは浩さんのご子息の、健太さんでしょうか』

見らぬ男性としきアイコンからの連絡に眉をひそめながらも、父の会社関係者かとい、私は『はい、息子の健太ですが、どちら様でしょうか』と返した。

相の「入力」の表示が点滅しては消え、数分の自然な沈黙が続いた。やがて届いた文面に、私の呼吸は止まった。

『突然このようなご連絡を差しげる非礼をお許しください。ですが、どうしてもお願いがあります。の曜に催されるの同窓会についてです。お父様の席を、どうか息子さんのお力で、いとどまらせていただけないでしょうか』

スマートフォンのたいバックライトを見つめたまま、私の指先は急速にを帯びた。

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いとどまらせろ?

の記憶が、父の胸のでどれほどい鉛のように沈んでいたかをいし、激しいりが胃の底からせりがってきた。

『どういうですか。父が何か悪いことでもしたと仰るんですか。、父を理尽に虐げていたのはそちらの側でしょう。今になってまで、父を仲れにする気ですか』

乱暴に画面を叩いて送信した。

だが、画面が暗転するもなく、今度は別の見らぬアカウントから連続して通が入った。

「野」と名乗る物からだった。

『の息子さん、頼む。内から連絡先を聞いた。頼むからを会に来させないでくれ。本のためにもならないんだ』

さらに分、目の「佐伯」という物からも、ほぼ同文のメッセージが届いた。

『お願いです。浩さんを止められないでしょうか』

のひらにじっとりと脂汗が滲んだ。偶然の致ではない。彼らは裏で連絡を取りい、組織に父の参加を阻止しようとしている。

私は目の佐伯という男のトーク画面をき、りを込めてく打ち込んだ。

『のいじめ加害者たちが、老いぼれてから父に仕返しでもされるのが怖いんですか? 父の何がそんなに恐ろしいんですか。理由を言えないなら、警察に営業妨害か脅迫で相談します』

送信ボタンを押した直、画面の向こうの相は即座に既読をつけた。

そして、秒も経たないうちに、たったの返信が戻ってきた。

『お父様から、久美さんがなぜのに退したのか、度でも聞いたことがありますか?』

見らぬ女の名だった。

青いを放つ液晶画面ので、私の考は完全に凍りついた。

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