"面談記録にあった前妻の名前" 第17話
なるつの声
式が終わり、保護者たちが斉に体育館のへと吐きされた。
舎の渡り廊のガラス戸の向こうに、黒いウールコートの襟をてて、所なさげにっている男の姿があった。
健司だった。
え込むの、ポケットに両を突っ込み、持ち無汰に踏みをしている。
体育館からてきた私たちと目がうと、健司は気まずそうに線を逸らし、それから恐る恐るづいてきた。
「……終わったか」
「ええ。派な答辞だったわ」
私がく答えると、健司は「そうか……」とだけ呟き、綾子の方をチラリと見た。
綾子はさく会釈をしただけで、健司と言葉を交わそうとはしなかった。
かつて自分が全てを采配し、コントロールしていると信じ込んでいた男は、今やの女の輪のに、歩も踏み込むことができなくなっていた。
「美咲! お母さん!」
渡り廊の向こうから、卒業証の入った黒い筒を抱えた遥が、駆け寄ってきた。
友達との記撮を終えたばかりの彼女の頬は、たいと興奮でほんのり赤く染まっていた。
「遥」
健司が先に声をかけようとした。
けれど、遥のは止まらなかった。
健司のを通り過ぎる瞬、「お父さん、待っててくれてありがとう」とくをげ、そのまま私たちのへとび込んできた。
「見て、美咲! 卒業証、番にもらったよ!」
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誇らしげに掲げられた証の筒。
その胸元で、赤のコサージュがしだけ斜めに歪んでいた。
綾子がわず、自然にを伸ばした。
「あ、遥ちゃん、胸が曲がってる……」
細い指先で、丁寧にピンの位置を直してやる。
それと全く同じ瞬、私は遥のセーラーの胸元を見て、をいていた。
「寒いわよ、くコートのファスナー閉めなさい」
つの声が、のたい空気ので、見事になりった。
「あ……」
「すみません……」
私と綾子は同に声をして、同に元を押さえてち止まった。
お互いの顔を見わせ、気まずさと気恥ずかしさが混ざりった線が交差する。
それを見ていた遥が、耐えきれないように吹きした。
「あははっ! なにそれ、とも同に喋らないでよ!」
遥がお腹を抱えて笑った。
の活ので、私が度も見たことがないほど、屈託のない、底から解き放たれた笑い声だった。
その笑い声を聞いた瞬、私と綾子のにも、ふっと微かな笑みがこぼれた。
母親は、である必はないのだ。
誰かが本物で、誰かが偽物である必もない。
活を支え、叱り、背を押してきた私のも。
命を与え、くから祈り、再びを差し伸べた綾子のも。
どちらも本物で、どちらもこの子の骨や肉になっている。
しれた所で、健司が、輪に入れないままち尽くしていた。
彼はようやく理解したはずだ。
とは、誰かが誰かを排除して独占する子取りゲームではないのだということを。