みかん小説
本棚

"面談記録にあった前妻の名前" 第16話

パイプ子の隙

、曜。

まだの名残をとどめるたいが、学の庭の砂埃をさく巻きげていた。

正のには『第〇〇回 卒業証授与式』と墨でかれたて板が置かれ、コサージュを胸につけた保護者たちが列を作っていた。

私は紺のセレモニースーツを着て、体育館の入脇で待っていた。

約束のの分、りにづいてくる音が聞こえた。

いグレーのコートに、黒のパンプス。

髪を綺麗にろでまとめ、緊張で胸元をぎゅっと押さえた綾子が、そこにっていた。

「……美咲さん。おはようございます」

「おはようございます、綾子さん。寒いわね」

「はい……すごく、寒いです」

それ以の会話は続かなかった。

私たちは並んで受付を通り、入券を係のPTA役員に渡した。

役員が瞬、の母親という奇妙な組みわせに目を丸くしたが、チケットの学籍番号を確認すると、何も言わずに会次第を渡してくれた。

体育館のは、型ストーブが何台も焚かれているにもかかわらず、元から底えがした。

指定された保護者席のパイプ子に、私たちは並んで腰をろした。

隣同士に座る。

親しいわけではない。

親友になれるわけでもない。

私たちのには、拳つ分ほどの微妙で礼儀正しい隙が、ずっと空いていた。

広告

式のファンファーレが鳴り響き、拍のを卒業たちが入してきた。

列の先く、姿勢を正して堂々と歩いてくる遥の姿が見えた。

紺のセーラーの胸には、赤とのリボンが揺れている。

式は厳かにみ、やがてから「卒業総代、神遥」と名が呼ばれた。

遥がちがり、壇へと階段を登っていく。

にした答辞の巻を広げ、マイクのにつ。

その背は、に私が初めて会ったの、歳の頼りない女の面を完全に脱ぎ捨てていた。

「……私たちを、どんなも見守り、支えてくれた族に、からの謝を伝えます」

遥の声が、体育館の井に澄み渡るように響いた。

壇から、遥の線が瞬だけ、保護者席の私たちの方へと向けられた。

その瞳には、かつての怯えも、迷いもなかった。

に、隣から微かな擦れの音がした。

見ると、綾子が元をで押さえ、両肩をさく震わせていた。

声をさないように必で堪えながら、彼女の目から粒の涙が次々と溢れし、膝ののハンドバッグを濡らしていた。

、引きしの奥に隠されていた。

されたピンクのリボンのヘアピン。

このは、その痛みをすべて引き受けて、ここに座っているのだ。

私は自分のバッグから、未封のポケットティッシュを取りした。

何も言わず、ただ静かに、彼女の膝のへと滑り込ませた。

綾子が驚いたように目を見張り、涙に濡れた顔で私を見た。

そして、声にならない声で「……すみません」と唇をかし、ティッシュを受け取った。

言葉は交わさなかった。

抱きうことも、を握りうこともない。

ただ、たいパイプ子ので、私たちは同じ女の成を、それぞれのとを胸に抱きながら、静かに見つめ続けていた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: