"面談記録にあった前妻の名前" 第10話
方な決定
曜、夜の。
夕飯のすき焼きの鍋から湯気がちる、健司は嫌でビールの缶をけた。
プシュッという軽な音が、張り詰めたリビングの空気を自然に切り裂く。
「よし、肉も煮えたぞ。遥、慮しないでどんどんえよ。受験は体力が勝負だからな」
健司は自ら菜箸を持ち、遥の鉢に牛肉を取り分けた。
遥は「……ありがとう」とさく呟いたきり、箸をかそうとしない。
昨夜からずっと、彼女の表からは切の気が抜け落ちていた。
健司はそんな娘の様子に気づかないふりをしながら、満そうにビールを喉に流し込んだ。
そして、わざとらしくきく咳払いをつして、私と遥を交互に見つめた。
「とも、ちょっといいか。卒業式の件だがな、俺の方で全部話をまとめておいたぞ」
私のが止まった。
鉢を並べていた指先が、たく張る。
「学には、保護者席の申請をす。席するのは、俺と美咲だ。これが番筋が通ってる」
健司は何の疑いもない調で、胸を張って言い切った。
「綾子には、さっき俺から話で伝えておいた。『、遥を育ててくれた美咲のがある。今回は慮してくれ』ってな。あいつも納得してくれたよ。『分かりました、私はからお祝いします』って言ってくれた。これで丸く収まるだろ?」
広告
まるで仕事をつ片付けた能な管理職のような、誇らしげな笑顔だった。
自分がいかに庭の秩序を守り、現の妻である私に配慮し、波をてずに問題を処理したか――健司の顔には、その自負が満ち満ちていた。
「どうだ、美咲。しただろ? おが嫌ないをしないように、俺が全部を打っておいたからさ」
カチャリ、とい音がした。
遥のから、割り箸がテーブルのに滑り落ちていた。
彼女は両をお腹のあたりに当て、ぎゅっと背を丸めていた。
顔はのようにく、刻みに震えている。
私はく息を吸い込み、箸を置いた。
「健司」
私の声のたさに、健司の笑顔がピクリと引きつった。
「なんだよ、美咲。まだ何か満でもあるのか? 俺はおの顔をてて――」
「誰があなたに、そんなことを頼んだの?」
「は……?」
「綾子さんに話して、私の名を使って席を譲らせて、遥に無理やり納得させる……それがあなたの言う『解決』なの?」
「じゃあどうしろって言うんだ!」
健司が苛ちをわにして、テーブルのにビールの缶を叩きつけた。
「席はつしかないんだぞ! おと俺がるのが当たりだろ! 世体だってあるし、育ててくれたおを差し置いて妻を呼べるわけがないだろ! 俺はおを守るために言ってるんだ!」
「違うわ」
私はちがり、夫の目を真っ向から見据えた。
「あなたはおを守るためと言いながら、自分が悪者になりたくないだけよ。綾子さんにも、遥にも、私にも、いい顔をしたいだけ。全部の責任を『美咲の』のせいにして、自分だけは正しい父親の席に座り続けようとしているだけじゃない」
「美咲、お、いい加減にしろよ!」
「私はその決定に従わないわ」
私の平坦で、しかし決して退かない声に、健司は息を呑んだ。
「遥が自分で選ぶまで、あなたが勝に席を決めることは絶対に許さない」
健司の号を背に聞きながら、私は震える遥の肩にを添えた。
遥の体は、まるで氷のようにたくなっていた。