"面談記録にあった前妻の名前" 第9話
隠された胃薬
「綾子さん。遥の引きしのにあったを見ました」
私がそう切りすと、綾子は恥じ入るようにを縮めた。
「誕に贈られた、ヘアピンです。遥、に入る直、のでしていましたよ。私に見つからないように、ハンカチに包んで、カバンの底へ隠していました」
「そんな……」
綾子は両で元を覆い、息を詰まらせた。
「らなかったんですか? あなたが『ではつけられないかもしれないけれど』とにいたを、あの子がどれほどく受け止めていたか」
「私は……ただ、健司さんから『のに私を連させる物は切持ち込ませるな』と言われていたので……あの子に、そんないをさせていたなんて……」
綾子の肩が刻みに震え、テーブルのに粒の涙が落ちた。
「遥ちゃん……私と会うとき、いつも楽しそうに笑ってくれていたんです。学であったことや、好きな音楽の話をしてくれて……。でも、今の休みを過ぎたあたりから、々、急に黙り込むことが増えて……」
綾子はバッグから自分のスマートフォンを取りし、画面を操作して私に見せた。
メッセージアプリの画面だった。
『ママ、今は楽しかったよ。映画のチケットありがとう。切に引きしにしまっておくね』
『ママ、今度会うとき、美咲が買ってくれたマフラー着けていってもいいかな? すごく温かいんだよ』
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遥の送信したメッセージの数々。
そこには、母親をばせたい気持ちと、美咲を裏切りたくないという必の気遣いが、痛々しいほど混ざりっていた。
「そしてね、先、ファミレスでご飯をべていたとき……あの子、急にお腹を押さえてうずくまったんです」
「え……?」
「最初はべすぎたのかなってったんですけど、顔が真っ青で、や汗をびっしりかいていて。急いでドラッグストアに連れてこうとしたら、遥が自分のカバンから、さな薬の瓶を取りしたんです」
綾子は震える声で続けた。
「学でもめる、販の神経性胃炎のお薬でした。私が驚いて『どうしたの、これ』って聞いたら、遥、慌ててそれを隠して……『最、テストになるとたまに痛くなるだけだから、丈夫』って、笑ってみせたんです。でも、あんな薬、学が自分で買って持ち歩くなんて、普通じゃないですよね……」
胃の底がえ切っていくのをじた。
遥が胃薬を持ち歩いているなんて、私は全くらなかった。
では度もお腹が痛いなどと言ったことはなかった。
私のでは、いつも美しそうに夕飯を平らげ、元気に学へ通う「のかからない娘」を完璧に演じ切っていたのだ。
「健司さんから、連絡があったんです」
綾子は伏せていた顔をげ、すがるような目で私を見つめた。
「先週、卒業式のことで話がありました。
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『保護者席のチケットは枚しかない。当然、美咲と俺がるから、おは絶対に来るな。会の周りをうろつくことも許さない』って……」
「健司が、そんなことを……」
「はい。私は諦めるつもりでした。私が席を譲るのが、番正しいとっていましたから。……でも、その話のあと、遥からメッセージが届いたんです」
綾子が差しした画面の最に、いメッセージが表示されていた。
『ママ。私、卒業式で答辞を読む代表に選ばれたよ。
制を着て、壇につところ……本当は、ママにも見てほしかったな』
胸を鋭い錐で突かれたような痛みがった。
遥は、母に来てほしかったのだ。
自分のれ台を、見届けてほしかったのだ。
けれど、父親からは「美咲の、来るな」と釘を刺され、私のでは「席はつしかないから」とを閉ざした。
の母親ので板挟みになり、父親の敷いた保のレールので、歳の女が、胃薬をみながら耐えていた。
「神さん……美咲さん」
綾子がテーブル越しに、懇願するように言った。
「私はきません。式にはませんから。だからどうか、遥を……あの子を責めないであげてください。あの子はただ、誰も傷つけたくなくて、必だったんです」
私はく息を吸い込み、めきった茶のカップをソーサーに戻した。
カチャリとさな音が鳴る。
「綾子さん」
私はちがり、コートを羽織った。
「誰が式にるかは、健司が決めることでも、あなたが慮することでもありません」
綾子が驚いたように目を見張る。
「そしてもちろん、私が決めることでもないわ。……遥に、決めさせます。あの子が本当に望んでいることを、の都で誤魔化すのは、もう終わりにします」
私は帳をバッグにしまい、をげた。
「お話しできてよかったです。……あの子がんでいた胃薬の名、教えていただけますか」
喫茶をると、の始まりを告げるたいが、私の頬を容赦なく叩いた。
胸のの迷いは、完全に消えっていた。
今夜、私は遥と向きわなければならない。
たとえそれが、こので築きげてきた平穏な関係を、度完全に壊してしまうことになったとしても。