"面談記録にあった前妻の名前" 第8話
をげた背
おを運んできた員がちると、テーブルのには息の詰まるような沈黙が残された。
私はバッグから帳を取りし、テーブルの端に置いた。
学の面談記録にあった彼女の文字、引きしので見つけた映画の半券、。
それらを突きつけて、どうして今になって現れたのか、なぜ子供に嘘をつかせるのかと、のままに問い詰める言葉を、昨晩まで何度ものでシミュレーションしていた。
だが、をきかけた私のに、予もしなかった景が広がった。
綾子が、突然席からちがり、私に向かってくをげたのだ。
「……え?」
「神さん、本当に……申し訳ありませんでした」
彼女の額は、テーブルにつきそうなほどく垂れがっていた。
周囲の客が何事かとちらりと線を向けたが、綾子は顔をげようとしなかった。
「あの、学の面談に勝にったこと……そして、この、遥に秘密を作らせてしまったこと……本当に、ごめんなさい」
「……綾子さん、をげてください。座ってお話ししましょう」
私が戸惑いながら促すと、綾子は恐る恐る体を起こし、子に座り直した。
その目には、く涙が滲んでいた。
「私……ずっと、あなたにお礼を言わなければいけないとっていました。遥が歳のから、……母親のいないあの子を、あんなに優しく、まっすぐに育ててくださって……健司さんから、あなたが作ってくれるお弁当の話や、学の事にてくれている話を聞くたびに、謝と申し訳なさで胸がいっぱいでした」
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綾子の言葉には、計算された狡猾さも、私に対する敵も、微もじられなかった。
ただ、過の自分に対するい悔と、自責のだけが滲みていた。
「どうして……婚されたあと、姿を消したんですか。健司は、にったと私に説していました」
私の問いに、綾子は力なく首を振った。
「なんて、ける状態じゃありませんでした。遥を産んでから、ずっとひどい鬱を患っていて……あの子が歳になる頃には、朝起きることも、ご飯を作ることもできなくなっていました。泣き叫ぶ遥をに、ただ呆然とち尽くす毎で……このままでは、私がこの子を壊してしまうといました」
綾子は膝ののハンカチを固く握りしめた。
「健司さんのご両親からも、母親失格だと責められました。私もそういました。だから、親権を諦めて、実の福岡へ逃げるように帰ったんです。それから何も通院して、ようやくで普通に暮らせるようになったのが、でした」
「それで……遥に会いたくなったのね」
「はい……」
綾子は掠れた声で頷いた。
「自分勝なのは分かっていました。今さら母親面をしてていく資格なんてないことも。でも、どうしても、度だけでも元気な姿を目見たくて、健司さんに連絡したんです。そうしたら……」
「健司が、美咲には内緒にしておけ、と言ったのね」
綾子はさく息を呑み、辛そうに線を落とした。
「健司さんは、『美咲は真面目なだから、おのをったらく傷つくし、庭が壊れる』と仰いました。『遥と会うことは許すが、絶対に美咲のに入らないように、俺がを取り持つ』って……。私は、しでも娘の顔が見られるなら、どんな条件でも受け入れるしかありませんでした」
乾いたりが、再び胸の底から湧きがってきた。
だがそのりは、目のの々しい女性に向かうものではなかった。
庭を守るためという美名のもとに、過に傷を負った妻を脅し、幼い娘を共犯者に仕てげ、自分だけが絶対な「配分者」として君臨してきた、が夫の傲さに対してだった。