"面談記録にあった前妻の名前" 第6話
されたヘアピン
曜の夕方、暗くなり始めたリビングのレースカーテンの隙から、私はを眺めていた。
角の柱の向こうから、紺のブレザーを着た遥が歩いてくるのが見えた。
いつもならで玄関ポーチの階段を駆けがってくるはずの彼女が、今は扉の数メートルで、ふとを止めた。
何をするのだろうと息を潜めて見守っていると、遥は周囲を度だけ見回した。
そして、を自分の元へ伸ばした。
パチン、とさな音がここまで届いたような気がした。
遥の指先に握られていたのは、淡いピンクのさなリボンがついたヘアピンだった。
あの、彼女の机の引きしの奥で見つけた、実の母親からの誕プレゼント。
遥はち止まったまま、ブレザーのポケットからさなハンカチを取りした。
そのヘアピンを丁寧にハンカチで包み、エナメルバッグのファスナーを音をてないようにけて、番底へく滑り込ませた。
ファスナーを閉め、自分の髪をぐしで何度もえ、何事もなかったような「普段の遥」の顔を作ってから、扉へとを踏みす。
カチャリと玄関の鍵がいた。
「ただいまー」
「おかえり」
私はキッチンから、できるだけ普段通りの声で応えた。
リビングに入ってきた遥の横顔は、やはりどこか緊張で張っていた。
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「今、寒かったでしょう。お呂、先に沸いてるよ」
「うん、ありがとう」
遥は自分の荷物をソファーの隅に置き、何気ない仕で洗面所へ向かおうとした。
その、ダイニングの子の背もたれに掛けてあった、オフホワイトのニットマフラーに彼女の線が止まった。
先の初め、肌寒くなってきた頃に私が買ってやったマフラーだった。
遥が「これ、すごく柔らかくて温かい」とんで、毎朝学へ巻いてっていたものだ。
遥はそのマフラーにそっと指先を触れ、し躊躇うようにち止まった。
そして、私の方を振り返った。
「美咲」
「ん? なに?」
「あのね……今度の曜、これ、着けてかけてもいい?」
私は包丁を握るを止め、彼女の顔を見つめた。
「もちろんいいわよ。遥のために買ったんだから、いつでも好きなときに使いなさい」
「……うん。ありがとう」
遥はほっとしたようにさく息を吐いた。
けれど、その笑顔の奥に潜むかすかな翳りを、私は見逃さなかった。
曜は、綾子と会う約束のなのだろう。
遥は、実の母親と会う所に、継母である私が買ったマフラーをにつけてってもいいのかどうかを、わざわざ私に許を取ろうとしたのだ。
私への罪悪と、実母への気遣い。
どちらか方のを受け取れば、もう方に対してろめたい気持ちを抱かざるを得ない。
歳の女は、に入るに実母のヘアピンをし、をるに継母のマフラーを確認しながらきていた。
が「おを傷つけないためだ」と嘯いて作った境界線のせいで、この子は毎、自分をつに切り裂きながら歩いている。
胸の奥に、たくい決が固まっていくのをじた。
もう、健司の言い訳に付きっている暇はなかった。