"面談記録にあった前妻の名前" 第3話
管理者の言い訳
夜過ぎ、玄関の鍵が回る音がした。
音を忍ばせてリビングに入ってきた健司は、カウンター席に座ってかりもつけずに待っていた私を見て、さく肩をねさせた。
「うわっ……なんだ、美咲。起きてたのか」
健司は疲れた笑顔を作り、ネクタイを緩めながら寄ってきた。
「張、予定より引いちゃってさ。名古の支がどうしてももうって聞かなくて……あ、者面談、悪かったな。代わりにってくれて助かったよ。どうだった、遥の様子は?」
何事もなかったかのように振るうその顔を、私は暗がりのでじっと見つめた。
代半ばの、どこにでもいる誠実そうな会社員の顔。
部からも慕われ、所付きいも卒なくこなす、私の穏やかな夫。
「面談記録に、名があったわ」
私のい声に、健司のが止まった。
緩めかけていたネクタイを握ったまま、彼の線が宙を泳ぐ。
「……名って、何の」
「神綾子。に、遥と緒に面談を受けた保護者として、サインがしてあった」
リビングの空気が、急速にたく沈んでいく。
健司はく息を吐きし、持っていたビジネスバッグをに置いた。
その表から、先ほどまでのわざとらしい疲労が消え、代わりに厄介なトラブルに直面したとき特の、防なたさが浮かびがった。
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「……先が話したのか」
第声がそれだった。
謝罪でも、揺でもなく、誰が漏らしたのかという確認。
「遥にも聞いたわ。あなたから『美咲には絶対に言うな』って止めされていたって、泣きながら謝られた」
健司はを掻きむしり、ダイニングチェアを引いてドサリと座り込んだ。
両肘をテーブルにつき、顔を覆う。
「悪かったよ。おに黙ってたのは謝る。……でもな、美咲、聞いてくれ。浮気とか、そういうやましいことじゃ絶対にないんだ」
「やましいことじゃないなら、どうしても隠していたの?」
「……?」
健司が瞬、喉を詰まらせた。
その揺を、私は見逃さなかった。
やはり、先の面談が初めてではなかったのだ。
「綾子がこっちに戻ってきたのは、だ」
健司は観したように、くで語り始めた。
「あいつ、婚したあと精神に参ってて、実の州に引きこもってたんだよ。にったっていうのは、俺がおに余計な詮索をされたくなくてついた嘘だ。……で、、あいつの体調も活も落ち着いて、隣町のマンションに引っ越してきた。どうしても遥に会いたい、目でいいから顔を見たいって連絡が来て……」
「それで、会わせたのね。私に言の相談もなく」
「言えるわけないだろ!」
健司が突然、声を荒らげた。
だがすぐに階の遥の部を気にせるように声を落とし、を乗りしてきた。
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「おに言ったらどうなる? 嫌な顔をするに決まってるだろ。、遥のために尽くしてくれたおに対して、妻が急にてきましたなんて、言えるはずがない。おを傷つけたくなかったんだよ!」
「私を傷つけたくなかった?」
乾いた笑いがから漏れた。
「私を傷つけないために、歳の子供に嘘をつかせたの? 母親と会うたびに、継母に罪悪を持たせるような活を、も続けさせたの? それがあなたの言う『優しさ』なの?」
「俺がに入ってコントロールしてたんだ!」
健司は必に正当性を主張した。
「に度、昼にファミレスで飯をう程度だ。学の事だって、運会は側のち見エリアから見るだけ、面談もおが張のタイミングだったから度だけ許した。美咲、おの母親としての居所を奪うつもりは絶対にないって、綾子にも厳しく釘を刺してある。俺が全部、波がたないように境界線を引いて管理してたんだよ!」
健司の瞳の奥にあったのは、紛れもない自己陶酔だった。
の女のバランスを取り、娘を守り、庭の平をで維持してきた優秀な管理者――彼は本気で自分のことをそう信じているのだ。
「健司。あなた、何も分かってない」
私は静かに首を振った。
「あなたが守ったのは庭の平じゃないわ。ただ、自分が修羅を見たくないから、そのツケを全部、遥に背負わせていただけよ」
健司はそうに顔を歪め、それ以何も言い返さなかった。
夜のえ切った部に、埋めようのない亀裂の音が響いていた。