"面談記録にあった前妻の名前" 第2話
言えない名
スーパーで買ったネギと豚肉のパックを蔵庫に押し込み、械に包丁をかした。
まな板に刃が当たるい音だけが、静まり返ったキッチンに響く。
午半、玄関の引き戸がカラカラと鳴った。
「ただいまー」
部活帰りの遥の声は、し掠れていた。
居に入ってきた彼女は、肩にかけたそうなエナメルバッグをに置き、ブレザーのボタンをしながら私を見る。
「美咲、今ハンバーグ?」
「そうよ。くを洗っておいで」
普段と寸分違わない私の声に、遥は何の疑いも持たず、洗面所へ向かった。
蛇からが流れる音を聞きながら、私は胸の奥がひどく痛むのをじていた。
遥の背丈は、こので私の肩を越えた。
制の袖から覗く首は細く、まだ子供の柔らかさを残している。
この、私はこの子の成を誰よりもくで見届けてきたはずだった。
卓に向かいって座り、遥が箸をかし始める。
、とハンバーグをに運んだところで、私はコップの麦茶をみ、できるだけ穏やかなトーンで切りした。
「今ね、学で者面談があったの」
遥の箸が、ぴたりと止まった。
「お父さんが張だから、私が代わりにってきた。先、推薦入試の論文について丁寧に教えてくれたよ」
「……うん」
遥は顔をげない。
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皿のの千切りキャベツを、箸先でさく散らしている。
その自然な静けさが、担任の言葉が事実であったことを雄弁に物語っていた。
「先がね、議そうな顔をしてたの」
私は遥の目を見つめようとしたが、彼女の線は頑なに元へ落ちたままだ。
「先もお母さんが来て、同じ話をに聞いていかれましたねって」
ダイニングの空気が、瞬で凍りついた。
計の秒針の音だけが、やけにきく響く。
遥の華奢な肩が、かすかに震えていた。
「先、学に来てくれたのは……遥の、本当のお母さん?」
遥は答えない。
唇をぎゅっと噛み締め、膝ので制のスカートを握りしめている。
その握りこぶしがくなるほど力が入っていた。
「お父さんは、そのことってるの?」
沈黙のあと、遥のが、ほんの数ミリだけ縦にいた。
っていたのだ。
夫も、娘も。揃って。
「どうして教えてくれなかったの?」
鳴るつもりはなかった。
責める調にならないよう、私は自分の声を慎にコントロールした。
けれど、遥にとっては、その静かな問いかけこそが何よりの刃だったようだった。
ポタポタと、テーブルののランチョンマットに粒の涙が落ちた。
遥は顔を覆うこともせず、ただを向いたまま、涙をボロボロとこぼし始めた。
「美咲……ごめんなさい」
絞りすような、掠れた声だった。
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「お父さんが……美咲には絶対に言っちゃダメだって……言ったら、のがややこしくなるからって……」
「健司がそう言ったの?」
「美咲、らないで……お願いだから、らないで……」
遥は震えるで私の袖を掴んだ。
その瞳には、嘘がバレた気まずさではなく、もっと底れない、怯えのが浮かんでいた。
「お願いだから、お母さんを……もう来させないとか、言わないで……」
胸の奥を、錆びたナイフで抉られたような痛みがった。
りよりも先に、徹な絶望が胃の底に沈んでいく。
遥にとって、私が真実をるということは、実の母親を奪われる脅威と同じだったのだ。
かけて築いてきたはずの信頼は、実母というのに、瞬で「自分たちを引き裂くかもしれない者」へと格げされていた。
「……もういいわ。ご飯、めちゃうから」
私は遥のを優しくほどき、ちがった。
それ以、彼女の顔を見ていることができなかった。