"あんたの金なら一滴も飲まない" 第17話
終わっていた宿題
「ぷはっ……」
空になったガラス瓶を座卓に置くと、藤井さんは元をの甲で拭った。
瓶の底に、わずかにい雫が残っている。
藤井さんはその空っぽの瓶をおしそうに見つめ、それから静かに息を吐いた。
「……たくて、美しいですね」
「ええ。ここの牛乳は、濃くて美しいんですよ」
母がふふっとさく笑った。
藤井さんは膝のにを置き、し背筋を伸ばした。その顔には、背負ってきたい荷物をようやくろした男の、れやかな堵が広がっていた。
「さん」
「はい」
「これで……私の宿題は、終わりですね」
藤井さんの声は、し掠れていた。
「健先輩に頼まれた役目を、私はちゃんと果たせたでしょうか」
居のに、穏やかな沈黙が流れた。
母は藤井さんの顔をまっすぐに見つめ、静かに、はっきりと言った。
「藤井さん。あなたの宿題はね、とっくの昔に終わっていたんですよ」
藤井さんがハッとしたように顔をげた。
「半、最初の半が過ぎた……あなたがわざわざに話をくれたでしょう。『先輩との約束の半が過ぎました』って。あのにね、あなたの役目はもう派に終わっていたんです」
「でも、あのお母さんは、『もうし続けてほしい』とおっしゃった……」
「ええ、言いました」
母はしだけ目を伏せ、恥ずかしそうに微笑んだ。
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「あの頃の私はね、健さんがいなくなって、自分がこの世から消えていくような気がしていたんです。誰も私を気に留めない。朝が来ても、起きる理由すらない。だから、あなたに甘えたんです。『まだあのが私を見守ってくれている』って、嘘の証拠が欲しかった」
母は顔をげ、藤井さんを優しく見つめた。
「でもね、藤井さん。あなただって、あの『もうやめます』って言わなかったじゃないですか」
藤井さんの肩が、さく揺れた。
「毎、更の話をくれたもそうでした。私が『もうしだけ』って言うのを、あなたはずっと待っていてくれた。……お互いに、ずるかったんですよ。終わらせるのが怖くて、で健さんのせいにして、甘えっていただけなんです」
藤井さんは目を潤ませ、唇を噛み締めた。
「……そうでしたね。先輩の名を借りて、救われていたのは……私の方でした」
「いいえ。お互い様です」
母は座卓にをつき、々とをげた。
「、私のが儘に付きってくださって、本当に、本当にありがとうございました。藤井さんのおかげで、私は今まで、でちゃんときてこられましたよ」
藤井さんもまた、畳に額がつくほどくをげた。
「こちらこそ……ありがとうございました」
のに、それ以の言葉は必なかった。
夕暮れ、玄関先で見送る私たちに、藤井さんはの窓から度だけを振った。
古い軽自の赤いテールランプが、坂のへとゆっくりと消えていくのを、母は杖をついたまま、に髪を揺らしながらいつまでも見送っていた。