"あんたの金なら一滴も飲まない" 第13話
退院のの話のベル
の最終週、母は無事に病院を退院した。
まだコルセットはせず、には本の黒いアルミ製の杖を握っていたが、医師からは「ので普通に活する分には問題ない」とお墨付きをもらっていた。
実へ戻るタクシーの内でも、母は相変わらず無だった。窓のを流れる見慣れた並みを、ただじっと見つめている。私が荷物を持って先にち、玄関の引き戸をけると、閉め切られていた古い造の匂いがふわりと漂った。
「よいしょ……」
母はがりかまちに杖をつき、ゆっくりと腰をろして靴を脱いだ。
「おかえり、お母さん」
「ああ。やっぱり、自分のが番落ち着くね」
母はさく息を吐き、久しぶりに穏やかな笑みをこぼした。
そのときだった。
廊の壁に取り付けられた黒い固定話が、けたたましくベルを鳴らしたのは。
ジリリリリリン、ジリリリリリン。
静まり返っていた平の空気を切り裂くような、甲い属音だった。母がビクッと肩を揺らし、がりかまちにをついたまま話を見げた。
「私がるわ」
私が駆け寄り、受話器を取った。
「はい、野でございます」
『あ、もしもし、野さんのお宅でしょうか? 町牛乳配送所でございますが』
話から聞こえてきたのは、あの聞き覚えのある配送所の女性の声だった。
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「はい、娘の美です」
『あ、娘さんですか! さん、今ご退院だとお聞きしまして。おめでとうございます』
「ありがとうございます。それで、何か……?」
女性はし声を潜め、事務なトーンに切り替えた。
『実はですね、藤井様の方から、今末での座引き落とし止の届けが正式に届きましてね。それで、来からのご契約について確認のお話を差しげたんです』
私の臓が、トクンとねた。
『もし来以も配達を続けられるようでしたら、様ご自の座振替用を今に投函していただく必があります。もし更されないのであれば……で配達は終となりまして、の朝には玄関脇の緑の箱を引きげに伺うことになりますが、どういたしましょうか?』
今までの私なら、「あ、もう結構です、引きげてください」と勝に答えていただろう。あるいは「私が引き継ぎますから用を送ってください」としゃしゃりていただろう。
だが、私は受話器を握ったまま、を閉じた。
振り返ると、がりかまちに座った母が、杖を握りしめたまま、じっと私を見つめていた。その目は、話の相が誰であるかを完全に察していた。
「……お母さん」
私は受話器を胸元に引き寄せ、母に向かって差しした。
「牛乳さんから。来からも続けるか、それともで箱を片付けるか……どうするか、聞かれてる」
母の呼吸が止まった。
夕方のが差し込む暗い玄関で、黒い受話器が母と私ので宙に浮いていた。
、誰もにできなかった「終わり」の言葉を、今、誰がにするのか。
母は震えるをゆっくりと伸ばし、私のから受話器を受け取った。