"あんたの金なら一滴も飲まない" 第10話
蔵庫をける目
「おはね、悪気がないんだよ」
母の声は、鳴るでもなく、突き放すでもなく、ただ静かに乾いていた。
「悪気がないから、余計に始末が悪いんだ」
「何がよ。私が何か悪いことした?」
私は丸子に腰をろす気にもなれず、ベッドの柵を固く握りしめた。パイプのたさが掌にい込む。
「おがこのに戻ってきて、最初に何をしたか覚えてるかい」
母は井の点を見つめたまま、静かに話し始めた。
「玄関で靴を脱いで、居にがって、座るに台所へったね。そして、蔵庫の扉をけた」
言葉に詰まった。確かに、私はそうした。
「けて、賞期限の切れた調料を見つけて、『これ、ヶも過ぎてるよ』って言った。凍の奥にあったの塩鮭を見て、『お母さん、こういうの危ないから捨てとくね』って言った。……覚えているかい」
「それは……お母さんがお腹を壊したら困るから」
「そうやっておは、いつも私の暮らしを採点するんだよ」
母の言葉は、静かだが確実に私の臓をえぐった。
「賞期限を管理して、掃除のき届いていないところを見つけて、お呂の段差を見ては『すりをつけなきゃ危ない』って溜息をつく。……おにとって、今の私はね、もう母親じゃないんだよ。『管理しなきゃいけない厄介な老』なんだ」
「そんなこと……! 私はただ、配してるだけで」
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「配の皮をかぶった指図だよ」
母は線を窓のへ移した。夕暮れのが、から濃いへと変わっていく。
「藤井さんはね、、度もこのの蔵庫をけたことがないんだよ」
その言に、私は完全に息を呑んだ。
「あのはね、健さんに頼まれたからって、毎朝ただ牛乳を届けてくれた。私がそれをんだかどうかも確認しない。蔵庫の奥に溜まって腐っていようが、所のにお裾分けしていようが、何も言わない。『ちゃんとんでますか』なんて話をかけてきたりもしない。……ただ、届けてくれるだけだったんだ」
母の痩せた指が、毛布の端をさく握りしめた。
「おが代を払ったらどうなる? 毎、私に話をかけてくるだろう。『今分も払っておいたからね、毎ちゃんとんでる? 骨のために残しちゃ駄目よ』って。実に来るたびに、ゴミ箱を覗いて空き瓶の数を数えるだろう。……違うかい?」
反論できなかった。
喉までかかった弁が、すべて喉元で凍りついた。
母の言う通りだった。もし私が引き継いだら、私は絶対にそうしたはずだ。母の体を気遣うという義名分を掲げて、毎朝の牛乳を母の義務にし、自分のい通りに活をコントロールしようとしたに決まっている。
「私はね、誰かにかされているって確認しながらむ牛乳なんて、滴も欲しくないんだよ」
母は背を向けて横になり、まで毛布をかぶってしまった。
丸まった母の背は、まるでい殻に閉じこもった貝のように頑なだった。
私は暗くなった病の片隅で、自分の両をじっと見つめた。私のは、母を助けているつもりで、母の最の尊厳を絞め殺そうとしていたのかもしれない。