"あんたの金なら一滴も飲まない" 第9話
ぬるくなったガラス瓶
病をたあとも、母の「監」という言葉がの奥でずっと反響していた。
胸のあたりが焼けつくように痛かった。実の親のために仕事をやりくりし、片半かけて静岡まで通い、誰もいない実の掃除や洗濯を引き受けている。それのどこが監だというのか。私はただ、暮らしの母が惨めないをしないように、娘として当たりの配慮をしているだけではないか。
翌朝、半に鳴ったチャイムの音は、昨までとはまるで違って聞こえた。
箱の蓋をけると、やはりそこにはたいガラス瓶が本、静かに収まっていた。私はそれを乱暴に掴みし、保バッグにも入れずにそのままトートバッグの底へ放り込んだ。
午過ぎ、病院のデイルームで母を見つけた。
リハビリ用の歩器に両を乗せ、理学療法士の若い女性に付き添われながら、歩歩、すりで廊をんでいた。背は以よりも曲がり、パジャマのズボンの裾から覗く首は、私の首ほどに細くなっていた。
その姿を見ていると、昨夜のりが急速に萎んでいくのをじた。
母はっている。違いなく老いているのだ。その現実をにして、を張ることに何のがあるのだろう。
部に戻った母をベッドに座らせ、私はバッグの底から牛乳瓶を取りした。
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「これ、今朝届いた分。……置いておくからね」
昨夜と同じように、キャビネットの角に置いた。表面についていた滴はすでに乾き、ガラスはすっかり温に馴染んでぬるくなっていた。
母は線を元の湯呑みに落としたまま、何も言わなかった。
「お昼にでもんでよ。カルシウム、骨にいいんだから」
私は努めて普通を装って声をかけた。だが、母は微だにしなかった。
昼のが過ぎ、午のお茶のが過ぎても、瓶はミリ単位すらかされなかった。
窓から差し込むが、キャビネットののガラス瓶を赤く染めていた。のい液体はとっくに温まり、キャップの赤いセロファンが湿気でしふやけている。
夕方の回診が終わり、護師が体温計を回収しに来たとき、母は平然とした顔で言った。
「護師さん、すみませんけど、そこの牛乳を捨ててもらえますか。もうめませんので」
「えっ、まないんですか? もったいないですよ、宅配のいいやつなのに」
「ええ、いらないんです」
護師が困惑したように私と母を交互に見つめた。私はたまらず、ベッドのにみた。
「お母さん、何やってるのよ」
声が震えた。同の患者への慮も吹きんでいた。
「昨藤井さんの話を聞いてから、度もをつけてないじゃない。……そんなに私のおでむのが嫌なの? 私が関わることが、そこまで気に入らないの?」
母は護師に軽く会釈をして瓶を預けると、護師がさくため息をついて部をていくのを待った。
引き戸が静かに閉まる。
病に残された苦しい沈黙ので、母はゆっくりと顔をげた。その目は、昨よりもく、暗いを湛えていた。