"あんたの金なら一滴も飲まない" 第8話
あなたのおじゃがない
夕暮れ、私は再び病院の病へ向かった。
夕の配膳が始まったばかりで、廊には煮魚とお茶の匂いが漂っていた。母はベッドのの式テーブルに置かれたトレイので、箸を持ったままぼんやりと窓のの暗い空を眺めていた。
ガラリと引き戸をけると、母はハッとしたようにこちらを向いた。
「……また来たのかい。洗濯物はでいいと言っただろうに」
母の声は、朝の拒絶をまだ引きずっているように尖っていた。
私は何も言わずにパイプ子を引き、母のベッドの脇に座った。そして、鞄から町牛乳の黄い申込の控えを取りし、母の箸の横に置いた。
母の線が、片のの「藤井修」という名に吸い寄せられた。
箸を握る母の節くれた指が、かすかに震えた。
「……会ったのかい」
「会ってきたわ」
私は努めて平静な声を保ちながら言った。
「駅のファミレスで、ほど話した。お父さんが最初は半だけ頼んだこと。半経ったあと、お母さんの方から続けてくれって頼んだこと。全部聞いたわ」
母は目を伏せ、唇を固く結んだ。言い訳も、りの声もがらなかった。ただ、さく丸まった背が、朝よりも回りさく見えた。
「藤井さん、来熊本に引っ越すそうよ」
その瞬、母の肩がピクリとねた。
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「息子さんのところへくんですって。だから、今いっぱいでの座も解約するって言ってた。お母さんがどれだけ頼んでも、もうあのが牛乳代を払うことはできないのよ」
母は何も言わなかった。ただ、じっとトレイののほうれんのお浸しを見つめていた。その沈黙が、私には何より痛々しく、同にひどく歯がゆかった。
「お母さん」
私はを乗りし、母の痩せたを握ろうとした。だが、母はそのをわずかに引いて、私の体温を避けた。拒絶されたのひらが、たい空気に晒される。
「ねえ、しむことないじゃない」
私はできるだけるい声を作って言った。
「お父さんがお母さんの体を配して始めたことなんでしょう? それなら、これからは私が払うわ。藤井さんの座から私の座に変更続きをするだけよ。毎千円ちょっとくらい、私がす。今まで通り、毎朝玄関に瓶の牛乳が届くように配してあげるから。お父さんの習慣は、私が引き継ぐ」
それが番正しい解決策だと信じて疑わなかった。
父親の代わりに、今度は娘である私が母を支える。親孝として、これ以ない筋の通った話のはずだった。
だが。
母はゆっくりと顔をげた。
その瞳には、謝や堵のなど微もなかった。私を射すくめるような、氷のようにたく、い拒絶のが宿っていた。
「余計なことをするんじゃないよ」
く、絞りすような声だった。
「お母さん……?」
「おがおを払うなら、そんなもの、滴もまないよ」
「どうしてよ! 同じことじゃない! 毎朝届く牛乳をむだけでしょ? 誰が払ったって同じじゃない!」
私の声がわずずり、病のカーテンの向こうにまで響いた。同の誰かがじろぎする気配がしたが、もう気にする余裕はなかった。
なぜ。どうしての藤井なら良くて、実の娘の私では駄目なのか。
母はえ切った目で私をまっすぐに見据え、言い放った。
「同じなわけがあるかい。おがおを払ったらね、それはただのおからの監だよ。そんなもの、喉を通るもんかね」
その言葉は、鋭利な刃物のように私の胸の真んを突き刺した。