"あんたの金なら一滴も飲まない" 第7話
熊本への段ボール箱
「でも、おかしいじゃないですか」
私は納得がいかず、わず声を張りげそうになった。
「百歩譲って、母がそう頼んだとしてもです。藤井さんにとっては、ただの昔の司の奥さんですよ? 親戚でもないのに、自分のポケットマネーから毎千円以の牛乳代を、以も払い続けるなんて、普通はあり得ません」
千円は、回み会をすれば浮く程度の額かもしれない。しかしとなれば、積もり積もって万円を超える。の庭のために無償で差しすには、あまりにもい額だった。
「何か、父とのに別の約束があったんじゃないですか。たとえば、父にきな恩義があったとか、遺産に関わるような……」
「そんな層なものはありませんよ」
藤井さんは遮るように、静かに首を振った。
「健先輩には職で本当によく面倒を見てもらいましたが、おの貸し借りなんて切ありません。……ただ、止めを見失ってしまったんです。毎、末になるたびに『今で終わりにしよう』とうんですが、お母さんからは度も連絡が来ない。こちらから話をして『やめます』と告げるのも、なんだかたく突き放すようで気が引けて……そうこうしているうちに、、またと過ぎてしまった。それだけなんです」
藤井さんの言葉に嘘があるようには見えなかった。
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むしろ、その調には、抱え込んできたさな荷物をようやくろせるという堵のようなが混じっていた。
「でもね、美さん。どちらにしても、これはもう終わるんです」
藤井さんはバッグのから、帳を取りした。そこに挟まれていた引っ越し業者の見積が、ちらりと見えた。
「私、先で会社の再雇用契約が完全に終しましてね。来の末に、このを引き払うことになったんです」
「引っ越し……ですか?」
「息子の族が熊本にいましてね。孫の面倒を見てくれないかと、ずっと呼ばれていたんです。妻とはずいぶんに別れて、ここには寄りもありませんから、私も向こうで暮らすことにしました」
アパートの解約続きもすでに済ませ、部のは段ボール箱でいっぱいなのだと、藤井さんは穏やかに笑った。
「牛乳の引き落としに使っているの座も、来いっぱいで解約します。ですから、美さんからお話をいただかなくても、今末か来のには、私から牛乳に解約の届をすつもりでした。お母さんにも、そのうちでもかなければとっていたところだったんです」
突きつけられた現実に、私は息を呑んだ。
、誰も触れずに放置されてきた平穏な止まりは、母の入院や私の介入とは無関係に、物理な限界を迎えていたのだ。
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「そうですか……」
「ですから、そのおは本当に持って帰ってください」
藤井さんは、テーブルのの茶封筒を指先で私のへと押し戻した。
「これは私が、自分の優柔断さのせいで払い続けてしまったものです。先輩への義理てのつもりだったのか、ただの私の甘えだったのか、自分でもよく分かりません。でも、あなた方ご族に請求する筋いのものではありませんから」
藤井さんは伝票をに取り、ちがった。
「お母さんには、私からうまく伝えておきます。それとも……美さんからお話しされますか」
私は押し戻された封筒を見つめたまま、すぐに答えることができなかった。
父の遺志は、とっくの昔に終わっていた。
残されていたのは、を張って誰かのを借り続けた母と、断る勇気を持てずにそれを送り続けた男の、の惰性と優しさの残骸だった。