"あんたの金なら一滴も飲まない" 第5話
駅のファミリーレストラン
メモにかれていた携帯話の番号を押すとき、指先がかすかに震えていた。
刻は午を過ぎていた。呼びし音が回鳴り、もう切ろうかとったところで、にカチリと通話がつながった。
「……はい、藤井です」
話から聞こえてきたのは、く落ち着いた、し掠れた男の声だった。背にの音が微かに混じっている。
「夜分に突然申し訳ありません。私、野健の娘の美と申します」
私が名乗ると、相の呼吸が瞬だけ止まったのが分かった。しかし、揺して話を切るような気配はなかった。
「……美さん、ですか。健先輩の」
「はい。父のことで、どうしてもお伺いしたいことがありまして。実は、実に届いている牛乳の申込を見ました」
沈黙が数秒続いた。相が何を考えているのか、息遣いだけでは測れなかった。言い逃れをされるか、あるいは警戒して切られるのではないかという私の懸は、次の静かな言でれた。
「分かりました。いつならお会いできますか」
翌の午、私たちは駅のロータリーに面した古いファミリーレストランで落ちうことになった。昼のピークを過ぎた内は閑散としており、ドリンクバーの氷が落ちる音と、く流れるイージーリスニングの音楽だけが漂っていた。
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奥のボックス席に座っていた男は、私がの入りからづいていくと、すぐに気づいてちがった。
藤井修さん。歳。
最に見たくの記憶と比べれば、髪にはいものが目ち、肩幅もし狭くなっていたが、目元の穏やかさは昔のままだった。仕ての古いくたびれたジャケットを着て、背をし丸めている。どこにでもいる、定を迎えたばかりの平凡な元会社員という佇まいだった。
「お忙しいところ、すみません」
「いえ。こちらこそ、急に呼びしてしまって」
向かいって座ると、藤井さんは員が置いたおのグラスを両でし回した。そのは節くれっていて、指先にさな古傷がいくつもあった。現で械を触ってきた父のと、よく似ていた。
私は挨拶もそこそこに、持参した茶封筒をテーブルの央に置いた。昨、コンビニのATMでろしてきた万円が入っている。分の牛乳代をおおよそ計算した額だった。
「これを受け取ってください」
藤井さんは封筒に線を落とし、それから私を見た。表を変えずに首をかしげる。
「これは?」
「父がくなってからの分、あなたが母のために払ってくださっていた牛乳代です。本来なら、私たち族が払うべきものでした。父がどんな約束をしたのかはじませんが、赤のである藤井さんに甘え続けるわけにはいきません」
私の調は、自分でもっていた以にく、淡だった。母に裏切られたような憤りと、この男に対する正体の見えない警戒が、そのまま言葉の端々に滲みていた。
藤井さんは封筒に触れようともしなかった。ただ静かにため息をつき、おをんでから、ぽつりと言った。
「そのおは受け取れませんよ。……それにね、美さん。実はこのこと、私の方からとっくに止めるべきだったんです」
「え?」
予もしなかった言葉に、私はのめりになった。
「止めるべきだったって……どういうことですか」
藤井さんは線をし落とし、困ったように眉をげた。
「文字通りのです。も続けるつもりなんて、最初からこれっぽっちもありませんでした。本当は……とっくに終わっていなければならなかったんです」