"あんたの金なら一滴も飲まない" 第4話
引きしの奥の黄い
夕方、暗くなった実に戻った私は、居のかりもつけずにしばらく玄関にち尽くしていた。
バッグのの牛乳瓶は、すっかり温かくなっていた。それを台所の流しに置き、私は父の遺が飾られている仏に向かった。
黒い額縁ので、背筋を伸ばした父が穏やかに微笑んでいる。
野健。元の精密械メーカーで設計筋に働き、定を迎えて数に胃がんで逝った。酒も煙も嗜まず、休は庭の入れか読ばかりしていた、実直を絵に描いたようなだった。母ともきな喧嘩をすることなく、穏やかな老を過ごしているように見えていた。
その父が、の直に仕組んだ契約。
母に「調べるな」と凄まれれば凄まれるほど、私のの疑は膨れがっていた。もしこれが、父の隠し子や、のようなからの送だったらどうするのか。あるいは、私が全くらない父の借や、ろ暗い関係の残骸だとしたら。
「お父さん、何を隠してたの」
遺のの線てはえ切っていた。
私は居に戻り、作り付けの茶箪笥のに膝をついた。番のい引きしには、昔からの類が詰め込まれていたはずだ。
引きしを引きすと、古い防虫剤の匂いがをついた。
産の権利、保険証券の束、固定資産税の通。
広告
几帳面な母らしく、クリアファイルに代順に理されている。その奥に、菓子メーカーの青い丸缶が押し込まれていた。
蓋をけると、輪ゴムで束ねられた公共料の領収がぎっしりと詰まっていた。気、ガス、、固定話。過分の片が、ごとに綺麗にまとめられている。
私はそれらを枚ずつめくっていった。
母が牛乳に渡されたと言っていた「契約更の控え」。員は毎渡していると言っていた。もし母がそれを捨てずに保管しているとしたら、この缶のしかない。
指先が埃で黒ずんでいく。、、。
そして、番底、父がくなった〇の束の隙に、の領収とは触りの違う、い黄の質がつ折りにされて挟まっていた。
広げてみると、部に擦れた青い印字でこうかれていた。
『町牛乳配送所 宅配利用申込・お客様控え』
付は、〇。父が息を引き取る、ちょうど週の付だった。
契約者氏名の欄には、震えるような細い跡で「野健」とかれていた。病で無理にペンを握らされたことが目でわかる、々しい字だった。
だが、私の目を釘付けにしたのはそこではなかった。
用の、太枠で囲まれた『座振替依頼/緊急連絡先』の欄だった。
広告
そこには父の字とは全く違う、太く力い、角張ったボールペンの跡で、こう記されていた。
『藤井 修』
所は内、実からで分ほどの興宅のアパートだった。そのには、きっちりと桁の固定話の番号と、携帯話の番号がき添えられていた。
「藤井……?」
声にして読んだ瞬、記憶の底に沈んでいた古い映像が、に浮した。
私がまだだった頃、父が折、に連れてきていた職の輩だ。いつも作業着の肩をすぼめ、玄関先で々とをげていた、の良さそうな、し頼りなげな男性。
だが、父の葬儀の席に、彼の姿はなかったはずだ。父が退職してからは、その名を聞くことすら度もなかった。
親戚でもない。父の親友でもない。ただの、昔の職の輩。
なぜその男が、もの、毎千円以のおを払い、母の元へ毎朝牛乳を届けさせているのか。
そしてなぜ母は、その男の名を、娘の私にすら頑なに隠そうとするのか。
私は黄の片を握りしめたまま、スマートフォンの画面に並ぶ桁の携帯番号を、震える指で見つめていた。