"あんたの金なら一滴も飲まない" 第2話
止められない契約
「はい、町牛乳配送所でございます」
話にたのは、しのそうな配の女性の声だった。背からはカタカタと瓶がぶつかりうような音が聞こえている。
「あの、野の娘の美と申しますが」
私は名乗り、に用件を伝えた。
「母がちょっと腰を痛めて入院してしまいまして。留守にしているので、今の分から配達を止めていただきたいんです。期はとりあえずヶほどで」
「あらあら、さん、入院されたの。丈夫ですか」
女性は所付きいのような親しみのある声で気遣ってくれた。
「ええ、骨にひびが入っただけなので、命に別状はありません。それで、牛乳の方なんですが」
「はいはい、台帳を確認しますね。野さん、野さん……あ、町丁目のさんね」
をめくるガサガサという音が受話器の向こうで続いた。数秒の沈黙のあと、女性の声からさっきまでの軽やかさが消えていた。
「……あの、娘さん」
「はい」
「申し訳ないんだけど、このお宅の配達、娘さんからのお話では止められないことになってるんですよ」
いがけない言葉に、私は眉をひそめた。
「止められないって、どういうことですか? 母本が入院していて、には誰もいないんです。めないものが毎届いても困るんですが」
「それは々承してるんですけどね。
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台帳に赤字でしっかり備考が入ってるんです。『契約の変更、休止、解約は、必ず契約者本または支払からの連絡に限る』って」
「私が娘なんですよ? 族の申しでも駄目なんですか」
「ええ……。最初に契約されたときに、ご主様から非常にい押しがあったそうでして」
息が止まりそうになった。元に当てたスマートフォンを、無識のうちにく握り直していた。
「……主って、私の父ですか?」
「そうですね。野健様のお名で最初の申込が作られています」
「父はにくなっています」
私の乾いた声に、話の向こうの女性は言葉を詰まらせた。
「ええ、それはうちの主もじております。健さんがくなられたとき、お悔やみにも伺いましたから」
「父がんでいるのに、父の指示が今もきてるんですか? じゃあ、この、代はどうやって支払われていたんですか。母の座から引き落としですか」
もし母の座から落ちているのなら、成見や族の委任を主張してでも止められるはずだった。だが、事務員の女性はごもり、ひどく困惑したように声を潜めた。
「それが……さんの座じゃないんですよ」
「え?」
「毎、決まった座から自引き落としでお支払いをいただいてるんですが、座名義はさんでも、健さんでもありません」
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古い造の静まり返った台所で、蔵庫のい唸り音だけがについた。
「……誰の座なんですか」
「それは……個報ですから、私どもの方から勝にお教えすることはできない規則になってまして」
「どうしてですか! 父がんでも経つのに、見らぬ誰かが母のに毎朝牛乳を届けるおを払い続けてるんですよ? 娘の私がそれをらされないなんて、おかしいじゃないですか」
私の声がわず尖った。話の女性は「困りましたねえ」と何度もため息をついた。
「とにかく、うちとしましては、規約通りにしかけないんです。もしどうしても止めたいとおっしゃるなら……さんに直接確認していただくか、そのお支払いをしてくださっている方に連絡をつけていただくしかありません」
「その支払ってるが誰なのかを教えてくれないと、連絡のしようがないでしょう」
「本当に申し訳ありません。でも、さんご自はごのはずですよ。毎の契約更の控えも、あちらにお渡ししていますから」
話はそれ以、展しなかった。
お互いに気まずい沈黙のあと、私は械に礼を言って通話を切った。
画面が暗くなったスマートフォンを見つめたまま、私は台所のパイプ子にへたり込んだ。
父がぬに頼み、、母以の誰かがを払い続け、母はその牛乳を毎朝欠かさず受け取っていた。
なぜ。
誰が。
何のために。
テーブルのに置かれたさなガラス瓶が、急に得体のれないみを持って私を見返しているようにえた。