みかん小説
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"私を捨てるはずだった夫" 第12話

荻窪からの話

同居としての活は、信じられないほど静かに、そして驚くほど滑らかに能した。

朝、私がに起きても、直の朝を作る必はない。

自分のためだけにトーストを焼き、好きなジャムをたっぷり塗って、静かにべる。

直が起きてくる音がしたら、私は自分のカップを持って畳の個へ引きげる。

彼が洗面所を使い、をていく「ってきます」のないドアの閉音を聞いてから、私は勤の準備を始めた。

スーパーのパート帰り、献にを悩ませることもなくなった。

自分がべたいお惣菜をつと、さなサラダを買えばそれで済む。

直が夜何に帰ってこようと、かりを消して自分の部で本を読んだ。

蔵庫の棚はマスキングテープで真っつに仕切られた。

の段が私、の段が直。

洗濯を回すのも週に回、自分のだけ。

直の脱ぎっぱなしの靴に苛つことも、テレビのチャンネル争いをすることもない。

それは、寂しさというよりも、無菌にいるような清潔でややかな平穏だった。

たまに廊ですれ違うと、私たちは「あ、すみません」と、職の同僚に対するような会釈を交わした。

激しい衝突もなければ、刺すような言葉もない。

婚姻関係という力から解放された部は、奇妙なほど軽だった。

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美咲からは、たまにLINEが届いた。

『バイト決まった』『来週サークルの宿』

い報告ばかりで、両親の様子を尋ねる言葉は通もなかった。

私たちも、美咲に今の奇妙な同居活について何も伝えなかった。

そうして、が過ぎ、が終わり、季節はへとを踏み入れていた。

引っ越してきてから、ちょうどヶが経とうとしていた。

の終わりの、たいがる曜の夜だった。

私はパートのシフトを終え、温かいおでんを買って帰り、自分の部でさな気ストーブに当たりながらべていた。

を過ぎた頃、玄関のドアがき、直が帰ってきた気配がした。

いつもなら、彼はそのまま畳半の自分の部に入り、缶ビールをける音が聞こえてくるはずだった。

だが、今夜は違っていた。

トントン。

控えめなノックの音が、私の部のドアに響いた。

の結婚活で、直が私の部をノックしたことなど、度もなかった。

ドアをけるにノックをするというのは、このヶで作られた「同居のルール」だった。

私は箸を置き、カーディガンを羽織ってちがった。

ドアをしだけける。

隙から見えた直は、コートを脱いだスーツ姿のまま、廊にっていた。

にはスマートフォンが握られている。

その顔には、ヶ、あの引っ越しのの夜と同じような、やりのない複雑なが落ちていた。

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「……何?」

私が尋ねると、直は度喉を鳴らし、スマートフォンの画面を私に見せるようにしだけ持ちげた。

「さっき、産から話があった」

直の声は、くかすれていた。

「……産?」

「荻窪の」

私の背筋を、たいものが駆け抜けた。

「あのワンルーム、俺がキャンセルしたあと、別のやつがすぐ契約したんだよ。……でも、そいつが急な転勤で、度も入居しないまま解約したらしい」

直は線を落とし、スマートフォンの縁を指先でく擦った。

「担当者が俺の履歴を覚えてて連絡してきた。『以付まで払っていただいたので、もし今でもお探しなら、週けの曜まで優先に押さえますがどうしますか』って」

廊の暗い球ので、直の瞳が揺れていた。

「……曜まで待つって、言われた」

空気が凍りついた。

ヶ、完璧に能していたはずの「同居のルール」という氷が、元でピシリと音をてて割れたような気がした。

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