みかん小説
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"私を捨てるはずだった夫" 第9話

畳半に積まれた荷物

「とりあえず、がって」

私がそう言うと、美咲は桜のキャリーケースを玄関のたたきに引きげ、慣れないつきでスニーカーを脱いだ。

のでは広々としていた玄関も、この居では美咲の荷物つで靴の脱ぎがなくなる。

「うわ、本当に狭いんだね」

美咲はキョロキョロと廊を見回しながら言った。

「リビング、どこ? 段ボール、まだ全然片付いてないじゃん」

「昨越してきたばかりだからね。……直さん、美咲が来たよ」

リビングの引き戸をけると、直がソファ代わりの段ボールのに腰掛け、慌てて背筋を伸ばすところだった。

にはスマートフォンの画面がっていたが、美咲の顔を見るなり、無理に作ったぎこちない笑顔を浮かべた。

「美咲。連絡もなしにどうしたんだ」

「物の、寮に持ってくの忘れてて。あと、分い羽毛布団も欲しかったし」

美咲は屈託なく笑いながら、積まれた段ボールのをすり抜けてリビングに入ってきた。

歳の娘の若さと、のたい空気の匂いが、澱んでいた部の空気を瞬でかき混ぜる。

私たちは自然と、続けてきた「父親」と「母親」の顔を作っていた。

直はちがってお茶を淹れようとし、私は買ってきたばかりのスーパーの惣菜を蔵庫に押し込んだ。

「ご飯、べてきたの?」

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「ううん、まだ。途でコンビニ寄ろうかとったけど、お母さんの顔見たらお腹空いてきちゃった」

「じゃあ、簡単に何か作るわ。うどんでもいい?」

「うん、あったかいのがいい」

何事もない、いつもの休のやり取りだった。

直が美咲のに湯呑みを置き、「寮活はどうだ」とぎこちなく尋ねる。

美咲は「先輩がちょっと厳しくてさ」と楽しそうに愚痴をこぼす。

だが、その平穏はくは続かなかった。

「ねえ、私の部ってどこ?」

美咲がお茶をんでちがった。

「本棚、置いてくれるって言ってた部。、押し入れからしたいんだけど」

「あ、そっちは……」

直の声が裏返った。

美咲はすでに、リビングの横にある畳半の部の引き戸にをかけていた。

このLDKの取りは、リビングの奥に畳のがつと、玄関脇に畳半のサービスルームがつあるだけだった。

ガラリ、と戸がく。

「……え?」

美咲のが止まった。

畳半の部のには、直の仕事用デスクと、昨彼が寝ていた敷布団が綺麗に敷かれたままになっていた。

壁際には、直のスーツが数着、突っ張り棒に掛けられている。

そして部の半分を占めていたのは、黒いマジックで「直・私物」「直・本」「直・類」とかれた段ボールのだった。

美咲のためのスペースなど、どこにもなかった。

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それどころか、そこはどう見ても「の男が活を完結させるための部」だった。

美咲はゆっくりと振り返り、リビングにち尽くす直と私を交互に見つめた。

その瞳から、先ほどまでの無邪気ながすうっと消えていた。

「お父さん、ここで寝てるの?」

「あ、ああ」

直は線を泳がせながら、で言った。

「俺、最いびきがひどいからさ。それに仕事で夜遅くなることもあるし、お母さんを起こすのも悪いから。に、荷物が片付くまでな」

苦し紛れの嘘だった。

美咲は何も言わず、部の隅に置かれた直の枕と、几帳面に畳まれた毛布を見つめていた。

彼女はもう、子どもの頃のように親の嘘を無邪気に信じる齢ではなかった。

「……変なの」

美咲がぽつりと言った。

「のでは、どんなに仕事が遅くても同じベッドで寝てたじゃん」

部のに、痛烈な沈黙が落ちた。

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