"私を捨てるはずだった夫" 第6話
の写真とおが決めてくれ
鳴り散らしたところで、現実は歩もかなかった。
午を過ぎると、の階からトントンと包丁の音が響き、の通りをがり抜ける音が聞こえ始めた。
世は普通の曜を始めている。
そして私たちの元には、まだ箱以の未封の段ボールが積みがっていた。
「……片付けないと、の踏みもない」
直が、掠れた声で言った。
私は彼を見ることなく、カッターナイフをにとって、番にあった「キッチン・器」とかれた箱のテープを裂いた。
言葉を交わさないまま、荷解きが始まった。
しい部は、のマンションより専面積が平米も狭い。
これまで当たりに収まっていたものが、ことごとく溢れした。
「これ、入らないぞ」
直が、リビングのクローゼットのでち尽くしていた。
ゴルフバッグと、用の分い羽毛布団枚を入れただけで、観音きの扉が閉まらなくなっていた。
「のところは袋があったからな……」
「捨てればいいじゃない、ゴルフなんて最ってないんでしょう」
私がたく言い放つと、直は気まずそうにバッグのファスナーを触り、それ以何も言わずに部の隅へ押し込んだ。
狭い空は、のを容赦なく摩耗させる。
すれ違うたびに肩が触れそうになり、そのたびに互いにを縮めて避けた。
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埃っぽい空気ので、分の活の残骸が次々と姿を現す。
美咲が学の図で作った歪なペンて。
の族旅で買った、度も使っていない陶器の皿。
壊れかけのアイロン台。
午を回った頃、私がけた箱の底から、の写真てがてきた。
ガラスの奥で、代の私と直がぎこちなく笑っている。
ハワイのさな教会で挙げた結婚式の写真だった。
直は今よりキロく痩せていて、私は焼けした肌にいドレスを着て、信じられないほど屈託のない顔をしていた。
私はその写真てをに取った。
ずしりといのフレームの角には、しだけ青錆が浮いている。
「ねえ」
玄関の靴箱を拭いていた直の背に向けて、私は声をかけた。
「これ、どこに置くの?」
直が振り返った。
写真てを見るなり、彼の眉にかすかな困惑がった。
それから、いつもの、本当にいつもの調子で言った。
「……おが決めていいよ。任せる」
その瞬、私ので何かがぷつりと音をてて千切れた。
「『おが決めていい』?」
私は写真てを握りしめたまま、直に歩み寄った。
「またそれ? あなた、それ以の言葉をらないの?」
直は私の剣幕に気圧され、にしていた雑巾をぶらげたまま半歩ずさった。
「いや、俺は別に、おの好きなところに飾ればいいと……」
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「そうやって、全部私に押し付けてきたんじゃない!」
写真ての角がのひらにい込んで痛かったが、緩めることができなかった。
「カーテンのを選ぶも『由美の好きにしていい』。美咲ののも『おが番美咲のこと分かってるから任せる』。私の親の法事の程も、エアコンの買い替えも、休の夕飯のメニューすら、あなたはいつだって『おが決めてくれ』だった!」
直の顔から血の気が引いていくのが分かった。
「面倒な選択を全部私に丸投げして、何か問題が起きたら『俺は任せてたから』って顔をして! 責任を取るのが嫌だから、私に決めさせていただけでしょう? そのくせ……そのくせ、番事な自分のき方だけは、なんで私に言も相談せずに、で勝に決めてるのよ!」
私の叫び声が、狭い玄関に響き渡った。
写真てを持つが震えていた。
直は壁に背を押し当てたまま、唇を刻みに震わせていた。
「どうしてそこだけは『おが決めていい』って言ってくれなかったの? 『俺は息が詰まるからていきたいけど、おはどうう?』って、なんで訊いてくれなかったのよ!」
涙が、界を急激に歪ませた。
泣きたくなかったのに、度溢れたい雫は、頬を伝って顎からボタボタとフローリングに落ちた。
直は雑巾を握りしめたまま、ただ呆然と私を見ていた。
彼のは微だにせず、私を抱き寄せることも、その涙を拭うこともなかった。
彼は、こうして私がを爆発させるたびに、嵐が過ぎるのを待つのように黙り込んできたのだ。
そして今回もまた、同じように嵐をやり過ごそうとしている。
「……もういい」
私は写真てを、元の「燃えないゴミ」とかれた指定袋のに、音をてて放り込んだ。
ガラスが鈍い音をてたが、割れはしなかった。