"私を捨てるはずだった夫" 第4話
鉛でかれた活費
直が戻ってきたのは、以経ってからだった。
ビニール袋のには、幕の内弁当がつと、お茶のペットボトル、それから缶ビールが本入っていた。
私たちは段ボール箱をテーブルの代わりにし、並んで座ってべた。
子レンジをまだ繋いでいなかったため、ご飯はたくてかった。
会話は切なかった。
直はビールを喉に流し込み、黙々と割り箸をかしていた。
私は揚げ物の油っこさに喉を通らず、煮物のこんにゃくを切れに入れただけで箸を置いた。
「俺、今はリビングで寝るよ」
べ終えると、直はそう言って、布団袋から引っ張りした敷布団を段ボールの隙に敷いた。
私も何も言わず、奥の畳――美咲の荷物と私の類が詰め込まれた部に入り、ドアを閉めた。
気の傘をまだ取り付けていないため、井からぶらがった裸球が、剥きしのを放っている。
部の隅に転がっている段ボールには、黒い油性マジックで「由美・物」「由美・本」「美咲・アルバム」と私の字で几帳面にがかれていた。
眠れるはずがなかった。
横になっても、元で佐藤さんの「奥さんも緒に」という声と、直の「どっちか分からなかったからだ」という呟きが、交互に再される。
彼は、私を捨てようとしていた。
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その事実が、じわじわと体の末端から体温を奪っていく。
、私はパートをしながら、毎朝に起きて朝を作り、直のシャツにアイロンをかけ、美咲の反抗期をで受け止め、義父母の法事の配をしてきた。
直が仕事に専できるように、庭の瑣末なトラブルはすべて私のところで堰き止めてきたつもりだった。
それを、彼は「息が詰まる」の言で片付け、で荻窪のワンルームへ逃げ込もうとしていた。
そして、何らかの理由で直になって挫折し、何わぬ顔で私と緒にこの部に引っ越してきたのだ。
計を見ると、午を回っていた。
喉が渇き、たいをもうとドアを細くけた。
リビングからは、直の規則正しい寝息が聞こえていた。
こんな状況でも眠れる神経が、の底から恐ろしかった。
台所へ向かう途、元に置かれていたさな段ボール箱にの指をぶつけた。
「痛っ……」
さく呻き、その箱を見ろした。
みかん箱ほどのきさの段ボールだった。
ガムテープの端がしめくれている。
表面には何もかれていない。私の字でも、美咲の字でもない。
直が会社から持ち帰った私物だろうか。
なぜか胸騒ぎがした。
私はしゃがみ込み、めくれかけたテープを音をてないようにゆっくりと剥がした。
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には、直の古い帳や、仕事関係の籍、それからクリアファイルが数冊入っていた。
そのクリアファイルの隙に、量販の細いレシートが挟まっていた。
ヶの付だった。
休に「ちょっと本にってくる」と言ってかけたのものだ。
品名を見て、指先が凍りついた。
『ハイアール 型蔵庫 リットル ドア』
『配送先:杉並区荻……』
レシートの肩には、赤い文字で「キャンセル・返処理済み」のスタンプが押されていた。
けれど、そのには、配送予定として「」と印刷されていた。
。
今だ。まさに、私たちがここへ引っ越してきた、今の付だった。
彼は、本当に部を借りていたのではない。
そこで活するための蔵庫まで、で気にって選んでいたのだ。
リットルの、氷と缶ビールとしの総菜しか入らないような、暮らし用のさな蔵庫を。
レシートの奥に、無の学ノートが冊、丸まるように押し込まれていた。
私は震えるでそれを引き抜き、ページをめくった。
直の几帳面な、し角ばった鉛の字が並んでいた。
『賃:万千円(管理費込み)』
『気・ガス・:約万千円』
『費:万千円』
『通信費:千円』
ページの央には、線で囲まれた項目があった。
『由美へ送:万円』
『(美咲の仕送り・学費積はボーナスおよび別座より継続)』
息が止まりそうだった。
直は、いつきで逃げようとしたのではなかった。
賃を計算し、費を割りし、自分がで暮らしていくための費用と、私に渡す活費の額まで、すべて机ので弾きしていたのだ。
私が「今度の部、ベランダが狭いから洗濯物干す竿をいやつに買い直さなきゃね」と呑気に相談していたあの、夫はこのノートをき、私を切り捨てたあとのの収支を、円単位で計算していた。
ページをめくると、最のに、ひときわ濃い圧でこうかれていた。
『 荻窪・アパマンショップ解約申し』
理由などは切かれていなかった。
ただ、その付だけが、ぽつんと残されていた。
。
週。
あの、体何があったというのか。
そこまで酷に、完璧にできる準備をえていた男が、なぜすべてをに戻し、私のでたい幕の内弁当をっているのか。
「……由美?」
背から、くかすれた声がした。
振り返ると、暗のに直がっていた。
敷布団から起きがり、リビングの入りから、ノートを握りしめた私の元をじっと見つめていた。