"私の遺産を仕分ける夫" 第10話
引きしの奥の断り状
「どうしてですか?」
私はを乗りした。
「最鋭の械があれば、く、く印刷できるって、敬さんは言っていましたけれど」
「そりゃあ、京のネット印刷の話ですよ」
武藤さんは苦笑いを浮かべ、事務所の窓から見える巨な旧式印刷を指差した。
「向こうは何台もの最を並べて、体制で全国からネット経由で注文を集めて、利売で刷りまくってるんです。うちみたいな沼津の片隅の町が、たった台だけ械をしくしたところで、価格でも納期でも太刀打ちできるわけがない。今の代、のチラシや文集なんて々減る方です。械をリースして借を増やせば、毎の返済に追われて、半と持たずに潰れますよ」
現の職の言葉は、あまりにも残酷で、あまりにもだった。
敬は、業界の構造そのものが変わってしまった現実から、目を背けていただけなのだ。
、汗垂らして守ってきた自分のやり方が通用しなくなったことを認めたくなくて、「械さえ良ければ勝てる」というにすがりついていた。
「従業員の佐々、ってるでしょう」
武藤さんが言った。
「子供がまれたばかりの、代の若い印刷です。あいつ、昨社に『もう来の料は払えないかもしれないから、今のうちに転職先を探せ』って言われたそうですよ。
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あいつ、泣きそうな顔で資材置きで段ボールを運んでました」
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。
夫は、では「従業員の活を守るためだ」「俺の問題じゃない」と声を荒らげていた。
けれど実際には、すでに現の若い従業員に匙を投げ、自分だけが最鋭の械というに執着していたのだ。
「武藤さん、しだけ、最の仕事の伝票を見せていただいてもいいですか?」
「え……奥さんがですか?」
「ええ。私のおが、本当にこのを救うために使われるのかどうか、自分の目で確かめたいんです」
武藤さんは瞬躊躇ったが、私の顔をじっと見つめたあと、机の脇の棚から分いバインダーを冊引きして渡してくれた。
ここの売伝票。
数字は見るも無惨だった。商の福引きのチラシ、学のPTAだより、元の旅館のパンフレット。どれも注文のロット数が半分以に激減し、単価も叩かれている。
赤字を垂れ流しながら、かせばかすほど損がるような仕事ばかりだった。
そのバインダーの最のポケットに、枚の青いクリアファイルが挟まっていた。
を改めると、元の特産品を扱う興の品ブランド『するが堂』からの企画提案だった。
付は、ヶ。
内容は、沼津港で採れた魚の干物や、駿湾の特産品を詰めわせる、級贈答用の化粧箱とラベルの印刷依頼だった。
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のネット印刷では対応できない、のを使った触りのある特殊印刷。ロット数は百個から千個という規模なものだが、つあたりの単価が非常にく、定期な季節ごとの発注が約束されていた。
提案の余に、敬の見慣れた跡で、赤鉛の文字が殴りきされていた。
『断り。百や千のロットにいちいち版を作っていられるか。うちは請けの印刷であって、こじゃれた雑貨ではない』
を持つ指先が、たく固まった。
「……武藤さん、これは?」
武藤さんがバツの悪そうに顔を背けた。
「……元の若い連がちげたブランドでね、うちの古い印刷の独特のインクの乗りや、かすれ具をすごく気に入ってくれたんです。『このは、京のネット印刷じゃ絶対にせない』って、何度もを運んでをげてくれたんですよ」
「なのに、どうして……?」
「社が突っぱねたんですよ。『こんなちまちました仕事、先代の顔にを塗るようなもんだ』って。社は、何万部も量に刷って、トラックで納品する昔ながらの『の仕事』しか、仕事だと認めたくないんです。さな仕事を丁寧に拾っていくなんて、プライドが許さないんでしょうね」
目のが、真っ暗になるような気がした。
が潰れかけている理由は、械が古いからでも、代のせいだけでもなかった。
代にわせて変わることを拒み、自分の古びた自尊を守るために、目のにある確かなチャンスを自らドブに捨てていたのだ。
そのプライドの穴埋めのために、夫は私に「百万円」を求し、私の父の遺産をい潰そうとしていた。
そのとき、のでけたたましくのドアが閉まる音がした。