"私の遺産を仕分ける夫" 第6話
窓の振込と枚の借用
翌朝、私は敬がへかけるに、居のテーブルに向かいって座った。
「昨の話だけど」
私が切りすと、敬のがピタリと止まった。作業着のチャックをげる途のまま、こちらをじっと見つめている。
「百万円、用します」
夫の表が気に緩んだ。眉の皺がほどけ、い堵のが顔全体に広がっていく。
「本当か……? 美、助かるよ。本当に助かる。お父さんの遺産からしてもらうのは申し訳ないが、これで会社が潰れずに済む。必ず返すから」
敬がちがり、私の肩にを置こうとした。
私はわずかにを引いて、そのを避けた。夫のが空で自然に止まる。
「ただし、つだけ条件があります」
「条件……?」
敬が怪訝そうに眉を寄せた。
「つ目は、現で渡したり、通帳を預けたりはしません。私がの窓へって、印刷所の会社の座へ直接振り込みます」
「……ああ、それは構わない。税務の処理もあるし、その方が会社としても助かる」
「つ目は、借用をいてください。会社の代表としての、正式なものを」
居の空気が、ぴんと張り詰めた。
敬の顔から、先ほどの堵が消えった。代わりに浮かびがったのは、侮辱されたような、信じられないものを見るような表だった。
「借用……? 夫婦のでか?」
夫の声がしくなった。
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「夫婦ので、銭の貸し借りに類を作るのか? 俺とおは、じゃないんだぞ」
「個のおじゃありません」
私は悸を悟られないよう、膝のでをきつく握りしめながら言った。
「夫の会社という法に、私が個な財産を貸し付けるんです。弁護士の先も、そういった続きをきちんとしておくのが筋だとおっしゃっていましたから」
『弁護士の先』という言葉をした瞬、敬の線がかすかに揺れた。自分が弁護士事務所へ通っていたことをられているのか、と疑うような鋭いが瞬だけり、すぐに引っ込んだ。
「……そうか。弁護士がそう言ったのか」
敬は苦々しそうに吐き捨て、胸ポケットからボールペンを抜いた。
「分かったよ。けばいいんだろ、けば」
夫がノートの切れ端に乱暴にペンをらせるのを見つめながら、私はたい痛みをじていた。
もし私が何も言わなければ、夫はこの百万を「夫婦の共財産」として、何の続きもなく当たりのようにみ込んでいただろう。借用の枚すら、妻の側から突きつけなければてこないのだ。
そのの午、私はの窓で百万円を印刷所の座へ振り込んだ。
通帳から百万の数字が引かれ、残は千万円としになった。
振込を終えて実に戻ると、待ち構えていたように玄関のチャイムが鳴った。
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扉をけると、そこには肩で息をした妙子がっていた。
「お姉ちゃん! 振り込んだって本当!?」
妙子は靴も揃えずにがり込み、居のテーブルに鞄を叩きつけた。
「さっきのアプリで見たのよ! 相続続きが終わったばかりなのに、もう百万も引きされてるじゃない! まさかとったけど、やっぱり義兄さんに渡したの!?」
「渡したんじゃないわ、貸したのよ」
私はテーブルのに、敬がいた借用を置いた。
妙子はそれをに取り、先でせせら笑った。
「ノートの切れ端にいたこんな切れ、何の効力があるっていうのよ! お姉ちゃん、目を覚まして! どうして言っちゃうの? どうして渡すの? あれだけ『円も渡しちゃダメ』って言ったじゃない!」
「印刷所が潰れそうだったのよ」
私は静かに言った。
「の械が壊れて、代の支払いも滞ってて……百万ないと、今で会社が回らなくなるって言われたの」
「それが義兄さんのじゃない!」
妙子は声を荒らげた。
「苦しい、変だ、潰れる、って泣き言を言って、お姉ちゃんの罪悪を煽ってるのよ! 、お姉ちゃんが義兄さんに尽くしてきたのと同じように、おまで差しさせてるの! それは優しさじゃない、ただの共依よ!」
「妙子!」
私はわず声を張りげた。
居が静まり返る。
妙子が傷ついたような目で私を見つめていた。
「……あのはね」
私は震える声で言った。
「敬さんだけのものじゃないの。あのがあったから、私たち、ご飯をべてこれたのよ。には武藤さんっていう、先代の頃からも働いてくれてる職さんもいるの。若い子だって、子供がまれたばかりなのよ。百万円でそのたちの活が守れるなら、私はすべきだとった。これは、私が自分で決めたことよ」
妙子はしばらくの、私をじっと見つめていた。
やがて、くため息をつき、静かに首を横に振った。
「……お姉ちゃんが自分で決めたなら、私はもう何も言えないよ」
妙子は鞄を持ち直した。
「でもね、覚えておいて。度蛇をひねったら、は勝に止まらないから。義兄さんは、これで終わりにするじゃないよ」
妹のその吉な予言は、わずかヶに、あまりにも残酷な形で現実のものとなった。