"私の遺産を仕分ける夫" 第2話
今度目の来所
相続続きの最終確認のため、私は妙子と沼津駅のビルにある弁護士事務所を訪れた。
父がお世話になっていた事務所で、遺産分割協議の最終な署名と押印をうことになっていた。事務所の応接には、な革張りのソファと、法律関係の分い籍が然と並んでいる。
「牧瀬美さん、それから原妙子さんですね。本はお忙しいところありがとうございます」
代半ばの、物腰の柔らかい男性弁護士が類の束を机のに広げた。
印鑑証や戸籍謄本を突きわせ、遺産の内訳と分配の割について説を受ける。実の平は売却して現化し、預貯とわせて均等に分ける。揉める素は何つなく、続きは極めて事務に、穏やかにんでいた。
私が持参した実印を、弁護士から示された箇所へ慎に押したときだった。
弁護士がふと顔をげ、メガネの縁を指で押しげながら、ごく自然な調子でをいた。
「ところで、牧瀬さん。今、ご主はご緒ではないのですか?」
朱肉のついた印鑑を持ったまま、私はを止めた。
「夫……ですか? いえ、今は印刷所の仕事がありますので」
弁護士はしだけそうな顔をした。
「ああ、そうですか。今に入ってから、もう度ほどこちらへを運ばれていたので、てっきり今もご緒にいらっしゃるものとっておりました」
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背筋のあたりを、たいがすっと吹き抜けたような気がした。
隣に座っていた妙子が、ぴくりと肩を揺らして弁護士を見るのが界の端に入った。
「夫が……こちらにですか?」
私は乾いた喉から、なんとかそれだけの声を絞りした。
「ええ」
弁護士は、私たちが当然夫婦で話を通しっているものだとい込んでいる様子で、元のメモ帳をめくった。
「主にお尋ねになられていたのは、今回の相続続きが具体に何何に完するのかという期についてです。奥様個の座に、現が実際に着するのはいつになるのか、と」
臓が、トクン、とい音をてた。
「それから……」
弁護士は言葉を続けた。
「もしその相続財産を、ご主が経営されている法へ事業資として繰り入れる、税務どのような扱流になるか、奥様から会社への貸付として処理するための公正証の続きなどについて、事に確認しておきたいとおっしゃっておりました」
応接の空気が、完全に止まった。
部の隅に置かれた観葉植物の葉が、エアコンので微かに揺れている。
私ののでは、弁護士の言葉が何度も、を変えながら霊していた。
期。
いつ座に入るか。
法への、事業資としての繰り入れ。
敬は、私にそんな話は度もしていない。
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「お父さんの遺産、どうなった?」とすら、骨には聞いてこなかったのだ。ただ「が終わって変だったな」と労うような言葉をにしていただけだった。
それなのに、彼はここへ来ていた。
私よりも先に。
度きりではなく、度も。
「……何か、都がございましたでしょうか?」
私の尋常ではない沈黙に気づいたのか、弁護士が怪訝そうに眉をひそめた。
「いいえ」
私は震えそうになる指先を膝のでく握りしめ、努めて平然とした声を作った。
「夫がそこまで具体に伺っていたとはじげず、し驚いただけです。夫は……に何か、おっしゃっていましたか?」
「いえ、特には。ただ、非常に切迫したご様子でしたので、事業の方でお急ぎの資需がおありなのだろうとお見受けしておりました。奥様とご相談のでの確認かとっておりましたが……」
「ええ、筋では話しております。細かい程の確認を、夫が気を利かせてくれたのだといます」
私はそう嘘をついた。
弁護士ので、連れ添った夫が妻に黙って遺産をあてにしているなどと、みっともなくて言えなかった。
隣で妙子が、ぎり、と奥歯を噛み締める気配がした。
「では、類の続き自体はこれで完です」
弁護士がちがり、をげた。
「備がなければ、およそ週——今には、奥様の指定座へ約千百万円の送が完いたします」
週。
あと。
その数字が、私のの芯に、たく鋭く突き刺さっていた。