みかん小説
本棚

"結婚式を欠席した家族は、私の夫をただの現場作業員だと思っていた" 第1話

港が丘ホテルのブライダル控は、11のたいれのに満たされていた。 純のウェディングドレスをに纏った私は、面鏡のに置かれた革張りの子に腰掛け、膝ので微かに震えるスマートフォンを見つめていた。挙式始を告げるパイプオルガンの演奏まで、あと20分。

だが、チャペルの最列に用された婦側の親族席——父、母、弟の拓也、叔父叔母夫婦を含めた計8つの席は、い布がかけられたまま、ただの1も座っていなかった。

ピロン、と乾いた通音が静まり返った控に響いた。 画面に表示されたのは、弟の拓也からのメッセージだった。

『今俺の就職祝いだからけないw 親族全員キャンセルでwww』

送られてきたのは、その無慈な2だけだった。文末には嘲笑うような「w」の記号が3つ並び、続けて1枚の写真が添付されていた。

内でも屈指の格式を誇る老舗料亭『松の』の広。緋毛氈が敷かれた広々とした座敷で、朱塗りの杯を掲げて満面の笑みを浮かべる父と母、そして親戚たちの姿がそこにあった。正面の屏のには、『祝・映都建設内定 森拓也殿』と達でかれた横断幕が誇らしげに掲げられている。

「……っ」

声にならない嗚咽が喉の奥で詰まった。 5にした招待状には、母の丸っこい文字で『楽しみにしています』とかれた返信ハガキが届いていたはずだった。

広告

10に弟の就職祝いの程を私の式と同じにねてきたも、母は「昼のお祝いが終わったら、みんなで途から駆けつけるから」と言っていた。父も「から顔をしてやる」と尊に言い放っていた。

全部、嘘だったのだ。 物ついた頃から、私はあらゆるものを弟に譲らされてきた。菓子も、学先も、誕すらも。 それでも——に度きりの結婚式のくらいは、両親は私を選んでくれるのではないかと、のどこかで淡い期待を捨てきれずにいた。だが現実は、親族全員を料亭に囲い込み、娘のれ台を完全な「空席」にして平然と酒を酌み交わしている。

「どうした、裕子」

静かな声とともに、純のタキシードにを包んだ夫の真柴彦が、私のに膝をついた。 焼けした精悍な顔ち、太い指の節。普段は紺の作業着を着て現のと油にまみれている夫が、今は見違えるほど凛々しい姿で私の顔を覗き込んでいる。

私は震えるで、スマホの画面を無言のまま彦に差しした。 彦は画面をスクロールし、拓也からのい文面と、料亭の写真をじっと見つめた。画面の端に映り込んだ横断幕の文字——『映都建設』という社名に、彦の鋭い線が止まる。

数秒の沈黙の、彦の喉からくをうような声が漏れた。

「……じゃあ、内定は取り消す」

広告

「え……?」

私が涙に濡れた瞳を瞠ると、彦は自らの失言に気づいたように静かにまぶたを閉じた。そしてく息を吐きすと、スマホを私のへと丁寧に返した。

「すまない、裕子。今の言葉は忘れてくれ。……それは俺が決めていいことじゃない。私で会社をかしたら、俺もあいつらと同じ穴の狢になる」

「彦さん……?」

「の朝番で、グループの事本部にを押す。この件には切ししない、と。俺たちは筋を通す。それだけだ」

彦はちがり、私のを取った。そののひらは分く、温かく、の過酷な労働で鍛えげられた頑丈な節くれがあった。

「裕子、を向くな。今ここに来てくれたたちは、みんなおを祝福するために集まってくれたんだ。あいつらのためのにしてやる必はない」

私はドレスの裾を握りしめ、溢れる涙をティッシュで拭った。 彦のからた「内定を取り消す」という言が、体どこへ向かって放たれたものだったのか。その本当の恐ろしさを、弟も、両親も、そして私自もることになるのは、まだし先のことだった。

私の名は真柴裕子。旧姓は森。今で35歳になる。 元の品加会社「港品」の総務課で事務職に就いて13が経っていた。

私の担当業務は、社員の与計算や備品管理、そして何より神経を使う労働全に関する類作成だった。

内で発した労働災害の保険続きや、怪には至らなかったものの危険をじた事例を現の作業員から吸いげる「ヒヤリハット報告」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: