"寝室にカメラを隠した夫と1億8000万円の遺産" 第8話
顔を洗い、昨から着ているスーツにブラシをかけて会社へ向かう。
に揺られながら、私ののは昨の来事でいっぱいだった。
ベッドののカメラ。
未記入の委任状。
医療関への相談メモ。
そして警察を見た瞬の、正斗の怯えと即答の言い訳。
全てが現実だったとはまだ信じがたいが、確かに警察はあの証拠品を持ち帰ったのだ。
私は会社の最寄り駅でり、いつものようにオフィスビルへ入った。
「おはようございます、島課」
「おはよう」
すれ違う社員と挨拶を交わし、自分のデスクに座ってパソコンをちげる。
いつもならこの点で、にいモヤがかかったようにぼんやりとしていた。
でも今は、画面の数字がはっきりとを持った報の羅列としてに入ってくる。
午、数の部が次々と決裁類や相談を持って私の席へ来た。
「課、来の資繰り表ですが、このきな支払い予定について確認をお願いします」
私は提された表を受け取り、目で数字を追った。
数千万円単位の数字が並ぶ、つの項目に自然な点を見つけた。
私はペンでその箇所を指した。
「この注費、先の倍になっているけれど、理由は確認した?」
部は類を覗き込み、慌ててをげた。
「あ、すみません。特急料の加算分がに計されていたかもしれません」
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部は類を引き取り、修正に向かった。
私はその背を見送りながら、自分の元にある卓を見つめた。
違っていない。
私は問題なく、複雑な数字の矛盾を見抜くことができている。
午の会議でも、各部からの報告に対し、私は適切な質問と指示をすことができた。
司からの突然の確認にも、数字の根拠を提示して確に答えた。
誰も私を「疲れている」「忘れっぽい」などとは言わなかった。
会社で数億円の売に関わる数字を毎見ている私が、なぜではあんなに自信を失っていたのか。
『最ぼんやりしてるよ』
『また忘れたのか』
『俺に任せておけばいい』
この半、正斗は常の些細な来事を捉えては、何度も私にそう言い続けた。
鍵を閉めたかになって戻ったも、彼が『閉まってなかったぞ』と言ったから私は自分を疑ったのだ。
本当はちゃんと閉まっていたのかもしれない。
彼が私をにさせるために、わざと嘘をついていたとしたら。
私は背筋にたいものがるのをじ、キーボードを叩くを止めた。
正斗は私が病気で判断力を失っていく様子を記録しようとしていたのではない。
私に『自分は病気で判断力を失っている』とい込ませようとしていたのだ。
夕方になり、私はホテルのくのスーパーで簡単な夕を買った。
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レジでおを払いながら、ふと自分の財布のを見た。
活費の管理は全て私がやっているが、正斗の料は彼の座に入ったままだ。
私はそこから毎定額を活費として受け取り、計を回していた。
叔母の相続財産は、私個の座につかずで残っている。
もし私が本当に判断力を失い、正斗に委任状を渡してしまっていたら、あの財産はどうなっていたのだろう。
ホテルに戻り、私はベッドの端に座って弁当の蓋をけた。
べてみたが、があまりしない。
私は無識のうちに、またベッドのを覗き込もうとしていた。
ハッとして顔をげ、自分ので頬をく叩いた。
「しっかりしなさい、私。私は壊れてなんかいない」
今、会社でちゃんと自分の仕事をしたじゃないか。
私を壊そうとしていたのは私自ではなく、夫の悪ある言葉の積みねだったのだ。
私はスマートフォンを取りし、先にメールを打った。
『今、会社で普通に仕事ができました。私は判断力を失っていません』
送信ボタンを押すと、すぐに返信が来た。
『当然です。レイ奈さんは何も違っていません。し詳しいお話をしたいので、事務所へ来られますか?』
私はキーボードをタップし、すぐに返信した。
『はい。仕事が終わってから伺います』
私はスマートフォンをテーブルに置き、改めて部を見回した。
ここは狭くて簡素なホテルの部だ。